六月の入学

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「大丈夫ですか?」  咄嗟に駆け寄ると、男の子はすぐに起き上がり、周囲をきょろきょろと見回す。まるで何かを探すように。 「に、人形が……」  そう呟くと、テーブルの近くに屈みこみ、自分の周りに散らばったものを拾い始める。見れば、男の子の言うとおり、雪だるまを少し縦長にしたような形の掌大の人形がいくつも地面に転がっていた。  男の子は大きな袋をふたつ手にしている。どうやら転んだ拍子に、そこから人形が飛び出してしまったらしい。 「クルト、わたし達も手伝いましょう」  クルトを急かし、三人で周囲に散らばった人形を拾い上げて、テーブルに並べてゆく。木に着彩された人形は、幸いにもどれひとつ欠けたり汚れたりすることは無かったようだ。 「あの、ありがとうございます」  男の子はお礼を述べるものの、人形を袋に入れようとはせず、戸惑ったような視線をテーブルの上に注いでいる。 「どうかしたんですか?」  気になって尋ねると、男の子は一瞬躊躇う素振りを見せた後、おずおずと話し始める。 「ええと、実は、この人形の置物はぼくの働いている工房で作っているもので、何軒かのお店にも卸していて……それで今、お店に新しい人形を卸して、古い人形を回収するっていう仕事の途中だったんですけど……さっき転んだ拍子に、ふたつに分けていた袋から人形がいっぺんに飛び出て……古い人形と新しい人形が混ざって、どっちがどっちだかわからなくなってしまったんです」 「え?」  わたしは思わずテーブルの上に視線を向ける。そこには同じように着彩された人形がずらりと並んでいる。 「それなら見た目でわかるんじゃないか? 古いほうは劣化しているはず……」  言いかけてクルトは口を噤んだ。少年もそれを察したのか首を振る。 「その……古い人形と言っても、あまり年月の経っていなくて、殆ど見た目に変化がないものもあるんです。見ての通り、色も同じだし……」  男の子の声が弱々しくなっていく。
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