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六月のはじまり
「ユーニ・アーベル。あなたには来月から学校に通ってもらいます」
神父様に突然そう告げられ、わたしは暫しの間言葉を失った。窓から柔らかな光の差し込む小部屋。そこに落ちる沈黙と反比例するように、建物の外からは子供たちの楽しそうな声が響く。
「が、学校……?」
やっとの事でそう返したわたしの戸惑いを知ってか知らずか、神父様は淡々と話を進める。
「クラウス学園という、ここから遠く離れた街にある男子校です。多くの名士を輩出した、とても伝統ある名門校だそうですよ」
「男子校……」
急にそんな事を言われても信じられない。何かの間違いではないかと思い、おそるおそる尋ねてみる。
「ええと、他の誰かと間違えてませんか? わたしがそんな学校に通うだなんて……」
「いいえ、間違いではありません。間もなく制服が届く予定ですから、いつでも出発できるように今から準備しておきなさい。ああ、それから、入学後には毎月決まった額の送金があるそうなので、それで必要な物を揃えるといいでしょう」
落ち着き払ったままのその様子に、わたしはますます混乱してしまう。
「あの、神父様。もしかして今まで勘違いしておられたのかもしれませんが……」
「なんでしょう?」
「わたし、女なんですけど……」
暫くの沈黙ののち、神父様は微笑みながら頷いた。
「ええ、もちろん知っています」
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