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「佐藤くんみぃつけた。」 資料室に引きこもったまま放課後を迎えてしまった。 「見つかっちゃった。」 白い肌も、白い髪も持ち合わせていないが、真似事をする。少しでも似ていたら、僕もかわいかっただろう。たぶん。 「佐藤くんにお客さん来てたよ。」 「神寺くんじゃなくて?」 「そう。」 僕にお客さん。しかも、学校に。 「校門の前で声掛けられたって言ってたよ。興奮気味に。石井さんが。」 「万美ちゃんが。」 心当たりはある。あのサラリーマンだと思う。急ぎ足で教室に鞄を取りに行き、校門まで走っていく途中で書道の先生に見つかってしまい、五分ほど足留めされた。 「すみません!おまたせしました!」 久々に走った。サポーターが擦れて痛い。 「悪い。学校まで来て。もしかして、走ってきてくれた?」 「走りましたよ。」 校門の前にスーツを着たイケメンがいる。と、誰かを追い越すたびに聞こえてくるのだから。急がないわけがない。 「ふふ。これ、渡しにきたんです。生徒手帳。私の部屋に落ちていたから、学生にとっては必需品でしょう。」 「ありがとうございます。」 「学生服の小枝くんかわいいですね。幼く見える。時間平気だったら、少し散歩していきませんか。」 「お名前、聞いてもいいですか。」 「小西わたる。したみずに、歩むで、渉。」 川などをわたる。広く見聞する。という意味だった気がする。 「小西さん。」 「渉でいいですよ。友達に言わなくて平気?ずっと、待っているみたいだけど。」 「それを言おうとしてました。」 僕らの対称に立っていた神寺くんと進藤くんに、サラリーマンと帰ることを伝える。あまりいい顔はしなかったが、帰ってくれとお願いすると、二人は僕を見送ってくれた。 ときどき、側溝の隙間から咲いている花や草がある。名前は知らないが、美しいと思ったことがある。小さな隙間に種が入り、根を生やす。その間にも、靴底から落ちてくる土が被さったり、小さな虫に食べられてしまうかもれしない。日光を求めて、細い茎の先にある子葉が、顔を出して呼吸をする。 「彼氏さんから連絡きました?」 「きてないです。渉さんはきましたか。」 「こない。私は連絡したいと思っているんだけど、子供にも会いたいと思っているんだけど、彼女は、私と会わせたくないみたいで。」 新しい命が成長をする。 「何ヵ月なんですか。赤ちゃん。」 「九ヵ月と二日。」 「浮気相手と再婚するんですか。」 「わからない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。置き手紙には実家に帰るって書いてあったけど、本当は浮気相手のところに行ったのかもしれない。世間ではよく聞くことだけど、自分がいざそうなると、どうしていいかわからなくなる。」 僕もわからない。どうして僕になにも言わず行動していたのか。隠し続けられるという自信があったのか。バレてもいいと思っていたのかもしれない。 「あのあとご飯食べました?」 「食べませんでした。あのあとは、また、お酒飲んで家で吐いてました。ビールだったので黄色かったですよ。」 「最後のは聞いてないです。」 「すみません。揶揄うと面白い友人がいるので、思わず。でも、僕も、わからないままです。わからないままでいたいとも思っています。僕は男の人を好きになったので、子供のことを考えたことないですし、わかりません。けど、もしも、自分に子供を授かれる体を持っていたら、なにかが変わっていたかもしれないです。」 望んでいたものと違うものが与えられる。与えてしまう。それは悪いことではない。けれど、苦しいことにかわりもない。 「今日は、ありがとうございました。家まで送らせてしまってすみません。」 「遅くまで付き合ってくれたから。よかったら、連絡先交換しない?」 「充電切れてるんです。あ。電話番号、聞いてもいいですか。」 サラリーマンは、電話番号を言って書くよりもこっちのほうが早いと言って、名刺をくれた。 一度寝た相手とは言え、ここまで仲良くなるとは思わなかった。きっと、眼鏡の奥を知りたいと思って結婚をしたのかもしれない。知らないけど。 帰り際、サラリーマンの背中が小さく見えた。今の僕も、事情を知っている人からみたら、なにかが小さく見えているかもしれない。 お腹空いた。ご飯食べよう。
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