3

1/1

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

3

「だあ゛!もう!また蜘蛛の巣!」 「ありがとう進藤くん。犠牲になってくれて。かっこわら。」 「小枝の前歩くといつも最悪。」 「僕のこと好きでしょ?」 「嫌いになりそう。小夜くんは?」 「今日好き。」 はいピース。 「きゅんでした。って、告白か。」 進藤くんもはいピース。 雨だからと体育館を期待していたが、曇った。乾いているわけではない。砂利が光沢しているように見える。 「お。太陽。」 「アマテラス!」 光沢してた。そして、アマガエル発見。 「進藤くんうるさ。ほらカエル。」 カエルに過剰反応する進藤くんは本当見物。 「やめてやめて近づけないで。お願い。蛍食べるんだよそいつは!」 蛍一匹でさえ見ていない。綺麗な川も、田圃も決してないわけではないけれど、僕らがそこに住んでいるわけではない。 そう。住んでいるわけじゃない。 「なに言ってんの。」 「いいから!ステイ!」 「わん。」 カエルは苦手だけど緑色は好きらしい。色が同じだったら連想されると思うのだけど。 僕の掌でペタペタと動くカエル。 「違うそうじゃない!」 カエルはこんなに呑気じゃない。触らないで。と、蹴るものだ。僕の手の中でここから出たいと動くのを知っている。進藤くんは、じたばたしてる。 少しだけ手を開いたら薬指と中指の間から飛び出して行ってしまうのだ。 「小枝さ、昨日なにしてたの?」 「進藤くんて時々ストーカーだよね。」 「ううんストーカーって決めないでストーカー行為はまだしていないけどしてみたいとは思ってるから期待して因みにまだ推しの家は特定してないから。」 「息をしたら息を。」 「してるしてる。推しの為に。」 「それは素敵でした。」 昨日は、アーモンドクッキーを食べた。別に食べたいと言ったわけじゃないけれど、用意してくれたから。 「僕は豊島園に行っていました。」 「その心は?」 「いつまで準備運動してるんだ!さっさとしろ体育委員!予鈴鳴っただろ!」 500㎖の缶に救われた。 食べた物全てを吐き出したいのに気持ち悪いだけ、嗚咽をするだけ、なにもかもをなくしたいのにアーモンドの臭いと黄色い液体だけが屑箱を汚した。栓のない蛇口みたいに唾液が溢れて口の端から垂れていた。水みたいに透明だった。嘔吐物と混ざる前から泡立っていた。なんだっけ。涎だ。 思い出した。昨日、クッキーしか食べてない。 お腹空いた。 気づいたら、朝六時。目は覚ましたけど余韻は抜けきれていない。嘔吐物の入った屑箱を綺麗にしようとした時に一瞬屑箱を見失った。 窓の外はまだ雨が降っている音がした。お母さんが楽しみにしているトマトが実らないかもしれない。赤くて、丸いトマト。 喉渇いた。そういえば昨日、四時間くらい歩いたんだ。 「あはは。進藤くん呼ばれてるよ。」 でも、僕は暴力を振られたわけでもない。強要されてたわけでもない。例えそうだとしても、僕は望んだと思う。離れたい。逃げたいと思っていない。今も、僕を好きだ。って、言ってくれたことを信じている。 別れ話をしたわけでもない。別れたいって思っているだけで、本当に離れてしまった時を考えられない。でも、今は会いたくない。連絡もきてないけれど。 カエルのような防衛本能はない。さっきのは僕と同じ。ただ一つだけ、僕から逃げたカエルと同じなのはその場から飛び出したこと。 僕以外に好き以上の人がいること。わからないけれど、これは人間だけかもしれない。 「佐藤くん。」 頭の上から神寺くんの声がする。 「佐藤くん聞いてますか。」 「神寺くんじゃん。きゅんでした?」 「きゅんでした。」 神寺くんの貴重なユビハート。いただきました。 「隣のクラスの美人さん。」 「大和撫子さんですか。」 「です。」 「おーけーしましたの。」 「申し訳ございませんがお断りしました。わたくし好きな人がいますから。」 神寺くんはときどき、僕に告白というなのカミングアウトをする。前髪で隠れいるはずの瞳がよく見えるのだ。 雨ニモマケズ風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダヲ。宮沢賢治に感服。まあ、よく知らないけど。素人目線真っ直ぐさが好き。物事には道理があることを教えてくれた先生の一人。 実ってほしいものは実らない。だから、熟れることを知らない。青いまま落ちてしまうかもしれない。その前に烏に食べられてしまうかもしれない。大和撫子さんとかに。その他諸々とかに。 食べられないまま食べられてしまう。 それが理想だったりする。 大事にされていると知ると、罪悪感がする。 「あ。」 ゴミ箱玄関に干しっぱなしだ。 お母さんいれてくれるかな。まず気づいてるかな。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加