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壊れることを知っていた。知っているけれど、知らないふりをする。そのほうが長く続くから。 時計の針が動かなくなったときが一番幸せ。だと思われる。 このままジャージでいたいくらい。 「あの!」 「アッはい。」 驚いた。隣の席の女子が話し掛けてくれた。正確には人間が恐れる背後から声を掛けられた。 「神寺くんのことなんだけど!」 「うん。」 ここは少女漫画かな。いいや。BL漫画の世界があるなら有り得る。 新幹線でどこにでも行けちゃう。みたいな展開。違うか。 「か、神寺くん、彼女いたりする?」 僕のお母さんよりつむじがよく見える。睫毛長い。あと、声がかわいい。 「うんー。いないとは思う。」 「本当!?」 恋してる女子かわいい。なにそれ上目遣い。眩し過ぎる。蜘蛛の巣が雨に濡れたあとみたい。 「神寺くんに彼女がいるところ見たことないよ。名前聞いてもいい?」 「石井まみです!」 元気な女性だ。 「漢字はどうやって書くの?」 「万屋のよろずに、美しいで、万美。」 「万美さん。万美ちゃん。万美ちゃんでもいい?」 「うん!えっと、佐藤くん。」 苗字覚えててくれたんだ。なのに、声を掛けるときはあれなんだ。 「あはは。なんでもいいよ。」 元気な女性だ。これ思うのも二度目だ。 「万美ちゃんは、神寺くんのことが好き?」 女子の浴衣姿に心臓を締め付けられる。みたいな。そんな瞬間を見たことがある。僕も経験した。相手男だけど。 今まで気にしていなかったニュースの占いに興味が湧いたり、少しでも近づきたいと思って好きでもない煙草を吸ってみたり、耳に穴を空けてみたり、壊れることを考えもしないまま。 失恋ソングに書くようなことばかりする。 林檎飴は口許が汚れる。屋台の焼きそばは特別美味しく感じる。金魚掬いは紙が破れても楽しい。花火は、高く高く打ち上がる。じりじりして、全てが特別になる。浮かれるんだ。心が浮遊する。 「好き、です。」 あなたの心ここに在らず。僕が不倫相手だとは知りたくなかった。 「かわいいね。万美ちゃんて。教室戻ろうか。着替えないと。」 離れる理由を探したくない。 「そう、ですね。」 僕の十分休みは他人の為にある。気がしてしょうがない。 「移動教室一緒に行きませんか?小枝さん。」 「今。着替えてる。進藤くんが邪魔をする。着替えられない。わかる?」 「わからない。きゅんでしたっ。」 お腹空いてきたから苛々してきた。本当だったら、この時間にお弁当を食べる予定だった。理想の手帳は誰かによって変えられてしまう。日記に替えようかな。 お母さんのトマトの日記付けようかな。 「なに考えてるの?佐藤くん。」 噂の神寺くん。 「進藤くんが邪魔だなって、考えてた。」 「そんな真顔で言わないで。そんなに怒ってると思わなかった。小枝、顔に出ないから。わら。」 「お前って呼ぶぞ。」 「本当にすみませんでした!時間あと一分だよ!はやく行こ!走れ!」 「誰のせいだよ。」 「小夜くん!」 「俺かよ。」 神寺くんが歯を見せながら面白いと言いながら笑うところが好きだ。というか、安心する。表情が少ないと言うか。 「神寺くん」 あまりにも笑わないから表情筋が硬直したか死んだのかと思うときがある。 「なに。」 「なんとなく、呼んでみた。」 「え。なにそれ。意味わかんない。」 「あ!予鈴鳴っちゃった!遅れました!」 「はやく席に着きなさい。」 物理の先生は表情筋が死んでいると思う。笑った顔を見たことがない。多分、笑ったら女子は騒ぐと思う。僕はギャップに萌えるよ。先生。 「佐藤くん佐藤くん。」 「万美ちゃ。え。ジャージのまま。」 しかも、また背後。 「物理の先生はジャージのままでも怒らないよ。席も勝手に変えても出席してればなにも言われないから。」 「暑くない?」 「暑い。けど、日焼けしたくないから。」 「静かにしなさい。」 日焼け。僕は日焼けあと好きだよ。 弱点見せてくれたみたいでいい。 なんとなく隠してるとか、気にしてないのもまたいい。 コンタクトレンズ。って、言ってたの思い出す。理由はわからなくないんだ。でも、食べる?はもっとない。 「石井さんといつから仲良いの?」 「なんで?」 「この前、石井さん追加してくれたからどういう繋がりなのかなって。」 神寺くん繋がり。 僕、グループに招待されてないけど。有言実行してた。 「秘密。」 「え。なにそれ。意味わかんない。」 「神寺くん。僕ら怒られるよ。ほら。よく見て。怖い顔。」 「本当だ。怖い顔。」 「小枝。本当に怒られるからやめて。小夜くんも。」 「ごめん。」 「ごめん。」 めちゃめちゃ怒られた。
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