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5
充電が切れそう。
接続部分が甘くなってしまい、確認をすると30%しかない日がある。
ちゃんと確認するべきだった。そう思いながら、お母さんのトマトを考えている。
「昼だ。」
進藤くんの口からお昼って言葉なん度も聞く気がする。
もう、ずっと前からお腹が空いている。残りが少ない。と、赤い点滅で報せてくる。僕が見たいのは緑色の点滅。
くるはずのない連絡を待っている。いつ充電が切れてもおかしくない唯一の連絡手段を握り締めている。文通だったら、まだ、諦めがついたかもしれない。ポストに僕宛ての手紙とか受け取ってみたい。
「購買行く?小枝。」
そしてこれが、まだ一日も経っていないということ。時間が止まっていないとわかっているけど、止まっているみたいに遅い。
あれからどのくらい時間が経ったか。手足の指だけで数えられるくらいしか進んでない。
「行く。神寺くんは?」
「行く。そしたら俺行ってくるよ。雨もあれから降ってないし。佐藤くんはお弁当?」
「パンがいい。」
「進藤くんは?」
奢られる姿勢でデートに行かない。友達とも遊びに行かない。買ってきてほしいと我儘を言うときはある。人の善意は否定したくない。
でも、進藤くんが他人に物を頼むときは気持ちが悪い。カエルに怯える姿は面白いから好き。やめられない。とまらない。かっぱのエビさん。
「行ってらっしゃい。神寺くん。」
「うん。じゃあ、場所取りよろしく。」
それは予想してなかった。だから、雨降ってない。って、言ったのか。
万美ちゃんは誘うのかな。夏祭り。と、花火大会。
少女漫画だと、僕らも一緒に誘われる設定で、いい雰囲気になった二人を周りは気を遣って分散する。
大体そういうとき、六人とか七人。偶数のときは、絶対二人一組にしたがる。
そして、大体その二人以外はカップル。内緒で付き合ってたり、元々が出来上がってる。両想いだったり、両片想いだったら、マッチング率は高いと思う。けども、そうじゃない場合は振られる可能性もある。すれ違いだって起きてしまうかもしれない。その点、奇数の七人は男女の友達が多い。と、思っている。
あとは、当て馬。
その前に期末テストあるから補習も考えられる。
充電が切れたぞ。と、振動した。
僕のスマホは放課後までないものと判断された。安らかに眠れ。
参考資料が漫画って、偏りがあるな。
屋上への出入りは去年まで禁止になっていたらしい。埃が舞っている。掃除が行き届いていないのかもしれない。少しだけ癖のあるドアノブを廻す。
「小枝は不機嫌な顔かわいいよね。」
進藤くんて、僕の傷口に無意識に荒塩を塗りたくるんだよね。
「あれ。佐藤くんだ。」
空気が冷えてきた。
「万美ちゃんだ。」
と、万美ちゃんのお友達。
「神寺くんも一緒?」
「うん。神寺くんも一緒。購買に行ってるからあとで来るよ。」
「あたし、町田けいこ。」
「漢字は?」
「景色と子供の子。それで景子。本当に名前の漢字聞くんだね。なんで?」
真逆なタイプとお付き合いする女性たちなのか。
「なんとなく。僕は佐藤と申します。」
「知ってる。よかったら一緒に食べようよ。私らしかいないし。」
誘い方スマート。惚れる。でも、五人は予想していない。
「小夜くん。おかえり。一緒に食べよって、町田さんが。」
「町田さん?」
「あたしのこと。よろしくね。」
「うん。よろしく。俺、神寺小夜。」
「私ら知ってる仲じゃん。」
女子はわからない。容姿が整った人間に集まるから。理由もなく近づいたりする。そうでない人もいる。
青く濁ったカレーより白いカレーを手に取る。みたいな。
町田さんも、神寺くんのこと好きなのかな。
隣にきてほしそう。
進藤くんは存在感消すの上手いんだよね。おかえりから一言も喋ってない。僕の書く相関図だと、いつも紙の隅。
「神寺くん、隣、来てよ。」
「強引な佐藤くんも嫌いじゃない。」
「うん。パンありがとう。」
「どういたしまして。隣、いい?」
「う、うん!」
万美ちゃんの左側に神寺くんが座る。その隣に僕がいる。
嬉しそうに笑うんだ。僕が隣になるよりも彼女の周りにぽわぽわとお花が咲く。
個数制限のある抹茶メロンパンの封があかない。切り込みも入っていない。僕の様子を見兼ねた進藤くんが封を開けてくれる。
「佐藤くんは?交換しない?」
「ごめん。スマホの充電切れちゃってて。」
今日は、購買のパンが美味しくなかった。そいうことにしよう。
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