二つの体温

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二つの体温

 八月某日、照りつける太陽にも負けず、僕は営業車を運転していた。朝買ったまま飲んでいない缶コーヒーは触ることすら拒絶するほど熱を持っている。  今日は土曜日だと言うのに、僕は仕事をしている。突発的なトラブルが発生したため、急遽その対応に追われて休日出勤に勤しむこととなった。 「これも悲しき営業マンの定めかな…」  僕はハンドルを握りながら、溜め息を吐いた。時刻は午後二時を過ぎたところ。トラブル対応は昼過ぎまでかかり、昼食もそこそこに家路についていた。  自宅のアパートに到着し、隣接した駐車場に車を停める。車外に出ると、車の中に篭っていた熱気が一気に外に放出される。と同時に、頭上に降りかかる太陽の熱、熱、熱。地面のアスファルトが歪んで見えるのが、真夏を感じさせてくれる。  放置していた缶コーヒーを手に取る。予想通り、これでもかというくらいに熱かった。あちあち、と両手でお手玉するように持ち、プルタブを開けて一口飲んで心を落ち着かせた。 ーーーーきっと今日も部屋は凄いことになっているんだろうな。  僕は予感というのもおこがましい、ほぼ確定した未来にまた溜め息をつく。約束をすっぽかした僕は「氷の姫」の待つアパートの自室へ重い足取りで向かった。  
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