二つの体温

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ーーーー※ーーーー 「あがったよー」  時刻はすっかり日付が変わる少し前。僕は今日一日の疲れを洗い流すようにゆっくりと風呂に入った。 「おかえりー」 「いいお湯だったよ。お風呂ありがとう」 「今日も熱帯夜なんだけどなー」  そう言うと、夏帆は僕の額に手で触れてきた。夏帆の手の感触が伝わる。 「さすがに湯船まで浸かって暑くない?」 「ううん、今日は色々あったから疲れも取れて気持ちよかったよ」 「なら良かった」  嬉しそうに笑い、夏帆は僕の額から手を離した。温かい体温が、僕の額から遠ざかる。 「じゃあ寝よっか」  欠伸をしながら、相変わらず薄着のまま夏帆はベッドへと倒れ込んだ。ダブルベッドには枕が二つ並ぶ。 「じゃあおやすみ」  夏帆はタオルケットをお腹にかけ、僕は布団をかぶり電気を消した。真っ暗な闇が部屋中を包み、僕はまるでこの世に二人だけしかいないような錯覚に陥った。 「今日は拗ねちゃってごめんね」  闇の中から、囁くような声が聞こえる。声の主はもちろん夏帆だ。 「やっぱり拗ねてた?」 「だって雪人とのデートを仕事に邪魔されたんだもん」 「僕の方こそごめんね。いつも仕事を優先しちゃって」 「それは本当に気に食わないけどね」  夏帆の声のトーンが明らかに落ち、僕は一瞬冷や汗を掻きそうになった。しかし、夏帆はすぐにくすくすと笑い始める。 「たまには仕事と私、どっちが大事なのよ!くらいのこと言ってみようかなー」 「ら、来週からそんなこと言わせないように努力します」 「来週じゃなくて明日からちゃんと一緒にいてよね」 「はい…」  約束ね、と夏帆はまた小鳥の囀りのように笑った。つられて僕も喉の奥で笑いが漏れ出す。
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