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「あがったよー」
時刻はすっかり日付が変わる少し前。僕は今日一日の疲れを洗い流すようにゆっくりと風呂に入った。
「おかえりー」
「いいお湯だったよ。お風呂ありがとう」
「今日も熱帯夜なんだけどなー」
そう言うと、夏帆は僕の額に手で触れてきた。夏帆の手の感触が伝わる。
「さすがに湯船まで浸かって暑くない?」
「ううん、今日は色々あったから疲れも取れて気持ちよかったよ」
「なら良かった」
嬉しそうに笑い、夏帆は僕の額から手を離した。温かい体温が、僕の額から遠ざかる。
「じゃあ寝よっか」
欠伸をしながら、相変わらず薄着のまま夏帆はベッドへと倒れ込んだ。ダブルベッドには枕が二つ並ぶ。
「じゃあおやすみ」
夏帆はタオルケットをお腹にかけ、僕は布団をかぶり電気を消した。真っ暗な闇が部屋中を包み、僕はまるでこの世に二人だけしかいないような錯覚に陥った。
「今日は拗ねちゃってごめんね」
闇の中から、囁くような声が聞こえる。声の主はもちろん夏帆だ。
「やっぱり拗ねてた?」
「だって雪人とのデートを仕事に邪魔されたんだもん」
「僕の方こそごめんね。いつも仕事を優先しちゃって」
「それは本当に気に食わないけどね」
夏帆の声のトーンが明らかに落ち、僕は一瞬冷や汗を掻きそうになった。しかし、夏帆はすぐにくすくすと笑い始める。
「たまには仕事と私、どっちが大事なのよ!くらいのこと言ってみようかなー」
「ら、来週からそんなこと言わせないように努力します」
「来週じゃなくて明日からちゃんと一緒にいてよね」
「はい…」
約束ね、と夏帆はまた小鳥の囀りのように笑った。つられて僕も喉の奥で笑いが漏れ出す。
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