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「ねえ、布団の中、入っていい?」
「えっ」
夏帆の意図は分かっているのだが、いつも他の意味に捉えてしまいドキッとする。要は、夏帆はこの部屋が暑いため僕に触れたいのだ。
「今日の罪滅ぼしだと思って。ね、いいでしょ?」
「罪滅ぼしが多い一日だね」
そう言いつつ、僕は笑い混じりの溜め息を一つ、布団の端を立ち上げた。小柄な夏帆が僕の布団に入ってくる。と同時に、僕の体に抱きついて来た。
「ちょっ、いきなり?」
「だって暑いんだもん」
夏帆は僕の肌に頬をぴたりとつけ、愉しむように体温を堪能している。
「相変わらず気持ちいい体温だねー」
「夏帆の体はちょっと暑いね」
「当たり前じゃん、だってこのクーラー、最低温度が二十六度までなんだから」
「世間的には二十六度でも十分だよ」
「今日みたいな猛暑日ならもっと低くてもおかしくありませんー」
言いつつも、夏帆は僕の体温を噛み締めるように体を密着させてきた。特注のエアコン。これは、僕が然るべき許可を経て特注した、一般的なエアコンよりも最低温度と最高温度が高いエアコンだった。
「でも、夏帆は暑がりなのに僕に合わせてもらってごめんね」
「体質だから仕方ないよ」
体質。そう、僕は生まれながらにして体温が人よりも異常に低い。平熱は常人よりも遥かに低く、体はかなり冷たい体質だった。それでも生命活動には支障が無いのだから、人体とは不思議なものである。
「今日もひんやりだー」
夏帆はぐいぐいと僕の体に身を寄せてくる。僕としても、暑がりな夏帆の体温は温かく気持ちがいい。壊れないように、でも強く、夏帆を抱きしめる。
「夏帆もあったかいよ」
「暑がりと寒がりでウィンウィンだね」
「僕の方は寒がりの域を超えてるけど」
「私、雪人の体温好きー」
夏帆も負けじと抱きしめ返してくる。二つの体温が混ざっていく。いっそのこと、このまま一つになってしまえばいい。座標軸の壁を超えて、細胞ごと一つになれば、僕は普通の人間として夏帆と日々を過ごせるだろうか。そんなことを考えていると、夏帆はそれを知ってか知らずか、僕の顔を見上げて微笑んだ。
「私、雪人みたいな冷たい人が大好きだよ」
「それじゃ違う意味に聞こえちゃうよ」
僕は思わず吹き出した。二つの体温は、これからも交わりはしないが、同じ温度で生きていく。
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