二つの体温

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 玄関のドアを開けると、案の定部屋から冷気が溢れ出し僕を襲った。  やっぱりか。真夏にも関わらず、僕はスーツのジャケットの襟を首元に寄せた。覚悟を決めてリビングの扉を開けると、そこには更なる冷気。  リビングの奥にある寝室、そのベッドの上で、氷の姫よろしく夏帆が仰向けに寝転がっているのが見えた。 「ただいま。遅くなっちゃって…」  恐る恐る声をかけたが、夏帆は一瞬こちらに顔を向けた後、無言で手に持っていたスマホに視線を戻した。 「ただいま、夏帆。お昼はもう食べた?」 「もう三時なのに逆に食べてないと思う?」  夏帆は冷たく言い放った。世間一般にはもうすぐおやつの時間である。そんな時間に昼食をとっていないとでも思ったのか、と半分嫌味な言い回しであった。が、僕はぐうの音も出ないのであった。 「ちょっとクーラー寒過ぎない?」 「暑いんだから仕方がないじゃん」 「とは言っても夏帆も薄着だし、風邪引いちゃうよ」 「うるさいなあ、家なんだから別にいいじゃん」  そう言って、夏帆はごろんと転がり、僕に背中を向けた。完全に火に油であった。いや、いっそ燃えてこの寒さを取り払ってくれればいい。 「…やっぱり怒ってる?」 「心当たりでもあるの?」  冷たい言葉に、僕は閉口してしまった。その間にもクーラーはガンガン冷気を吐き出し続けている。文字通り、僕は夏帆の機嫌が悪いことを、肌で感じ取っていたのだった。
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