二つの体温

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 とにかく謝ろう。元はと言えば約束を破った僕が悪いのだから。午前中は客先へ謝り、午後は同棲している彼女に謝る。まったく、営業マンというのは謝り尽くめの職種である。 「今日は休日出勤で約束破っちゃってごめんね」 「…別に、雪人が悪い訳じゃないじゃん」 「昨日までにお客に納品だったはずの製品が手違いで納品されていなくてね」 「今朝聞いたから知ってる」 「でも約束破ったのは本当のことだから、ごめん」  本当なら今日は朝から夏帆と出掛けて、行列の出来る人気かき氷店に行こうと約束をしていた。その筈が、朝一で鳴り響いた社用携帯。恐る恐る電話に出てみると、まず聞こえたのは後輩に引き継いだはずの、元々僕が担当していたクライアントの困った声だった。  なんでも、昨日までに納品される筈の製品がまだ届いておらず、どうしても今日の午後にはその製品が必要なため、すぐに納品されないと困る。現担当の後輩は電話をしても音信不通で、困り果てて前担当の僕に電話をして来た、ということだった。  僕は急いで後輩に電話をしたが、携帯の電源が切られているようで繋がらなかった。 ーーーー確かあいつ、数日前から有給取って海外旅行に行くとか言ってたな。  電話に出ない後輩。困り果てるクライアント。かき氷を楽しみにしている夏帆。様々な考えが頭をぐるぐる回りながら、やがて出した結論はこうだった。 「これからすぐに私が納品に伺います」  幸か不幸か、クライアントが発注していた製品は当社の定番製品だったため、支店の倉庫に在庫が大量にあった。クライアントの場所もそう遠くなく、急げば午後までには納品出来る。そう考え、夏帆には簡潔に事情を説明し、朝食も摂らず急いで家を飛び出したのだった。
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