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「まあ、それが雪人のいいところでもあるんだけどね…」
「へ?」
「いいよ、仕方ないから許してあげる。」
思いがけないお許しに、僕は思わず間抜けな声が出る。きっと、顔も間抜けだっただろう。一方夏帆は、体をむくりと起こし、正座で僕の方に向き合った。
「今回も特別に許してあげる」
今回も特別に、というのは些か矛盾していると思いつつも、僕は更に頭が上がらなくなった。いつもは無いから特別なのなが、僕は毎週のように「特別に」許されているので、文句は言えない。
「いいの?」
「埋め合わせはきっちりしてよね」
「ありがとう、ごめんね」
「またすぐ謝るんだからー」
そう言って、夏帆はくすりと笑みを溢した。今日初めての、夏帆の笑顔だった。つい僕も気が緩み、口許に笑みが浮かぶのが分かる。
「ありがとう、氷の姫」
「は?」
「ごめん、何でもない」
思わず余計なことを口走りそうになった。姫の氷が溶けるまで、緊張も解くな。そんな、くだらない事を考える余裕も出てきたのも事実だった。
「お客さんが雪人に電話をしてきたのも、きっと雪人が信頼されてる証拠だよね」
うんうん、と夏帆は頷きながら一人で納得していた。
「そうかなあ」
「悪く言えば良いように使われてるだけだけど」
「グサリと来るね、胸に」
「正直なのよ」
ふふふ、と口に手をやり、夏帆はおどけた笑いを見せた。
「そう言えば言い忘れてたけど」
「どうしたの?」
「お帰りなさい。お仕事お疲れ様でした」
夏帆は座ったまま、軽く頭を下げながら言った。
「うん、ただいま」
本日の謝罪、二件とも無事収束。僕はネクタイを緩め、年中出しっぱなしのこたつ机の上に置いた缶コーヒーの残りをぐっと飲み干した。
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