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「ところで」
ベッドから降り、夏帆はご自慢のフロアチェアにゆったりと腰掛けた。
「どうしたの?」
「埋め合わせはどうしてもらおうかしら」
ボーナスをつぎ込んで買った座り心地抜群の高級フロアチェアーーー座椅子と言うと夏帆は怒るのだがーーーでふんぞり返り、夏帆は楽しげに鼻歌を歌う。
「来週、かき氷のリベンジじゃ駄目?」
「だーめー!かき氷は決定事項だから埋め合わせにはなりませんー」
べー、っと舌を出しながら、夏帆は子供のように言う。
「埋め合わせが条件で許したんだからね」
「そ、そうだね…。なんなりと」
氷は溶けても、姫は姫のままだ。この際、仰せのままに。ははあ、とひざまずくような気持ちで、僕の胸はいっぱいだった。
「だいたいさ、約束してたかき氷だってさ、由紀夫が前に休日出勤して、その埋め合わせで連れてってくれるって言ったじゃん?その前も約束破って、その前の前も、前の前の前も…」
「耳が大変痛うござきます」
「このままじゃ雪だるま式に膨れあがって、埋め合わせも大変になっちゃうよ」
「ここらで一度リセットしとかないと」
「既に埋め合わせの金利も膨れ上がってるからね」
「借金みたいに言うね…」
「何がいいかな、埋め合わせ、埋め合わせ…あ、そうだ!」
夏帆は名案を思いついたようにぱん、と手を合わせ、溢れんばかりの笑顔で目を輝かせた。一方の僕は、嫌な予感が背筋を走るのだった。
「海行こうよ、海!きっと気持ちいいよ!」
「うみ?」
「そ、海。暑いし最高だよ」
「海かあ」
日光浴なら悪くない。日焼けでもしてみようか。そこまで考えていたら、夏帆の視線に気がついた。
「雪人、日焼けなんて考えてたでしょ」
「え?あ、ううん」
考えを見透かされ、思わず僕はしどろもどろになる。
「雪人、日焼けできない肌質じゃん、すぐ赤くなるし。ちゃんと一緒に泳ぐよ」
「ええ…」
僕は露骨に顔をしかめてしまったが、すぐ我に返り表情を戻した。駄目だ駄目だ、まだ姫への謁見中なのだから。
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