二つの体温

7/12

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ところで」  ベッドから降り、夏帆はご自慢のフロアチェアにゆったりと腰掛けた。 「どうしたの?」 「埋め合わせはどうしてもらおうかしら」  ボーナスをつぎ込んで買った座り心地抜群の高級フロアチェアーーー座椅子と言うと夏帆は怒るのだがーーーでふんぞり返り、夏帆は楽しげに鼻歌を歌う。 「来週、かき氷のリベンジじゃ駄目?」 「だーめー!かき氷は決定事項だから埋め合わせにはなりませんー」  べー、っと舌を出しながら、夏帆は子供のように言う。 「埋め合わせが条件で許したんだからね」 「そ、そうだね…。なんなりと」  氷は溶けても、姫は姫のままだ。この際、仰せのままに。ははあ、とひざまずくような気持ちで、僕の胸はいっぱいだった。 「だいたいさ、約束してたかき氷だってさ、由紀夫が前に休日出勤して、その埋め合わせで連れてってくれるって言ったじゃん?その前も約束破って、その前の前も、前の前の前も…」 「耳が大変痛うござきます」 「このままじゃ雪だるま式に膨れあがって、埋め合わせも大変になっちゃうよ」 「ここらで一度リセットしとかないと」 「既に埋め合わせの金利も膨れ上がってるからね」 「借金みたいに言うね…」 「何がいいかな、埋め合わせ、埋め合わせ…あ、そうだ!」  夏帆は名案を思いついたようにぱん、と手を合わせ、溢れんばかりの笑顔で目を輝かせた。一方の僕は、嫌な予感が背筋を走るのだった。 「海行こうよ、海!きっと気持ちいいよ!」 「うみ?」 「そ、海。暑いし最高だよ」 「海かあ」  日光浴なら悪くない。日焼けでもしてみようか。そこまで考えていたら、夏帆の視線に気がついた。 「雪人、日焼けなんて考えてたでしょ」 「え?あ、ううん」  考えを見透かされ、思わず僕はしどろもどろになる。 「雪人、日焼けできない肌質じゃん、すぐ赤くなるし。ちゃんと一緒に泳ぐよ」 「ええ…」  僕は露骨に顔をしかめてしまったが、すぐ我に返り表情を戻した。駄目だ駄目だ、まだ姫への謁見中なのだから。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加