二つの体温

8/12
前へ
/12ページ
次へ
「波打ち際で海水をパシャパシャ掛け合うやつ、やろうね」  悪戯っぽく、夏帆は片目を瞑ってみせた。 「海はなあ…山とかはどう?夏らしく」 「えー、山なんて虫たくさんいるし暑いしやだよ」 「夏帆は特別暑がりだもんね」 「うるさいなー」  クーラーが空気を吐き出す音が聞こえる。相変わらず夏帆は薄着だった。 「体質なんだから仕方ないじゃん」 「じゃあ川とかは?涼しいし、バーベキューもできるよ」 「うーん、それも捨てがたいけどやっぱり海がいいー」  予想以上に手強い。僕としては、色白な体を衆目に晒すことにも少し抵抗があるが、何より海に浸かって泳ぐのはーーー。 「そもそも、これは埋め合わせなんだから、雪人に選択権はありませんー」 そう言うと、夏帆は両手を交差させバツを作って見せた。 「そんな殺生な」 「それにさあ」  不意に、夏帆がテーブルに手を置き、前屈みで僕の目を見ながら言った。キャミソールから露出した肌が顔を覗かせ、目のやり場に困ってしまう。 「な、何?」 「雪人は私の水着、見たくないの?」  急にいじらしい目で見つめられ、僕は思わずドキッとしてしまう。 「別にそう言うわけじゃ」  水着。不覚ながら、その甘美な響きに僕は思考能力を奪われる。小柄ながら、出るとこはしっかり出た夏帆の姿が嫌でも脳裏に浮かび、そこに水着と来たものだから、僕は平静を保つのに必死だった。 「だめ?」  潤んだ瞳で首を傾げる夏帆に、僕の方は首を縦に振るほか無かった。 「…うん、わかった。海でいいよ」 「やりー」  先ほどとは打って変わり、夏帆は両腕を上げ力一杯喜びながら、再びフロアチェアに背中から倒れていった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加