第一話 少年は剣を

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第一話 少年は剣を

アクストラウム歴700年 日翔の月 リーベン王国王都から離れた地「マフィーネ村」 その村のはずれにある家に少年は暮らしていた。 少年の名は「ジョシュア・リーズベルグ」 少年は祖父の「マルガス・リーズベルグ」と二人で暮らしていた。 両親は少年が生まれてすぐに死去。 ジョシュアは両親の顔を見ることなく祖父と暮らす事となる。 人々は「可哀そう」や「大丈夫かねぇ・・・・あの子・・」 などと同情、憐みの眼を向けるが ジョシュアは明るく、元気に、まっすぐな少年へと育っていった。 祖父と共に平和で穏やかな日常を送るジョシュア そんなある日、ジョシュアは近くの森で剣術の訓練をしていた 「ふん!!やぁ!!とぉー!!」 木剣を手に訓練するジョシュア ジョシュアは祖父に教えてもらった通りに剣を振り、体を鍛える。 「はぁはぁ・・・よしっ!!今日はこのぐらいにしよう!!」 「じいちゃんも暗くなる前に家に帰れってうるさいし・・・」 そういってジョシュアは家に帰ろうと林に目を向けた。 その時、林の奥で何かが走り去るのを見かける。 「人?・・・・青い目・・・」 ジョシュアにはそれが何かはわからなかった 人影だということはわかったが 誰かはわからなかった だが、かすかに見えた青い目 それに惹かれるようにジョシュアは、何者かが走り去っていった方へと向かって走り出す。 「どこに行っただろう・・・たしか、こっちだったはずだけど・・」 探しているうちに辺りはうっすらと暗くなっていた。 普段の彼ならこんなことはしないだろう。 祖父の言いつけを守り、暗くなる前に家に帰るはずだった。 だがこの時だけは彼は何故か気になったのだ。 走り去る人影 ぼんやりと見えた青い目 その目がジョシュアの心に焼き付いて離れない。 「いた!!!」 ジョシュアの前に多数の人影が写る だが様子がおかしい・・・ 「話してる?・・・いや、違う・・・なにしてるんだろう・・・」 そこには青い目をした長い耳の女性と兵士と思われる姿の二人の男がいた 「へへへ・・・追っかけっこはおしまいだぜ?嬢ちゃん!!」 そういって男は女性の手を掴もうと手を伸ばす。 考えるよりも先にジョシュアの体が動き出す 「や、やめろっ!!!」 そういってジョシュアは女性と男たちの間に割って入る 「なんだ!?」 「村のガキか?」 男たちは突然の少年の乱入に驚いた様子だったが その直後一斉に笑い出す 「ハハハハハハッ!!!」 「おい、坊主英雄気取りか?」 「そういうのはガキ同士でやってろ!!」 そういって男の一人がジョシュアの腹部を殴りつけ、さらに追い打ちとして蹴り飛ばされる。 「うわっ!!!」 ジョシュアは蹴り飛ばされ、吹き飛ばされる。 「いってぇ・・・!」 吹き飛ばされ、地面にたたきつけられながらもジョシュアは起き上がる 目の前で困っている人がいる。 それをただ見ているなんてできない。 助けなきゃ・・・俺が助けるんだ・・・。 その一心でジョシュアは傷ついた体を起こす。 「おい、あのガキ起ちあがったぞ?」 男の一人が立ち上がったジョシュアに驚きながらもう一人の男に言う。 「生意気だな・・・ガキらしく痛がりながら泣いてろ!!」 ジョシュアを蹴った男はジョシュアが立ち上がったことに苛立ったのか 腰に備えていた剣を抜き、ジョシュアに剣先を向ける。 「おい、糞ガキ!死にたくなかったら泣きながら命乞いをしろ!!そうすりゃ命ぐらいは助けてやる!!!」 「・・・誰が・・・」 「あ!?」 「誰がお前らなんかに命乞いするかよっ!!!!」 ジョシュアは持っていた木剣で男の剣を払い、男の脚を剣で叩く。 「グッ!!!」 男は予想だにしない反撃を喰らい体勢を崩す。 その間にジョシュアは男から離れ木剣を構える。 「俺は!相手が誰だろうと悪い奴は許さない!!じいちゃんが言ってたんだ!!女、子供を襲うような奴は最低な人間だって!」 「だから!俺はあんたらを倒して!その人を助ける!」 まだ幼いジョシュアの体は悲鳴を上げていた。 本当は泣きたかった、痛いって叫びたかった、動かずに悶えていたかった。 だが、それらの感情をグッと我慢してジョシュアは立ち上がる。 「この・・・糞ガキィィィッ!!!!!」 男は剣を握り直し、ジョシュアに切りかかる。 (やばいっ!!体が動かない!?) しかしジョシュアは恐怖で動くことができなかった。 「死ね!!クソガキィ!!!」 男の剣がジョシュアに降りかかる。 「やめてっ!!!」 男の振り上げた剣がジョシュアを切る寸前、辺りに女性の声が響く。 「もう・・・やめて・・・」 声の主は男たちに襲われていた青い目の女性だった。 「もう私は逃げません・・・貴方たちの言うとおりにします。だから!だからもう・・・その子を許してください・・・」 女性はそういってジョシュアの前に立つ。 「大丈夫?ごめんね?私のせいでこんなにボロボロになって・・・」 ギュッとジョシュアを抱きしめる女性。 「ごめんね?・・・痛かったよね?もう大丈夫だから・・・私は大丈夫だから」 優しく抱きしめジョシュアを優しく慰める女性。 ジョシュアは彼女の顔を見る。 そして 「・・・大丈夫じゃ・・ないじゃん・・・」 「おねぇさん・・・泣いてるじゃん・・・」 ジョシュアはそういって女性を体から離し、再び剣を構える 「大丈夫だよおねぇさん・・・俺が!おねぇさんを守るから!絶対守るから!!」 ジョシュアは彼女の涙を見て、覚悟を決めた 自分はどうなってもいい、ただこの人を守りたい この人が泣いてる姿を見たくない 「何をしているジョッシュ・・・」 その時、突然ジョシュアの背後から声が聞こえた。 「じぃ・・・ちゃん・・・」 声の主はジョシュアの祖父、マルガスであった。 マルガスは状況をすぐさま理解し、男たちへ歩み進む。 「貴様ら・・・我が孫に何をしている?」 そういってマルガスは腰に携えていた手斧を取り出す。 「チッ!ガキの次はジジィかよ!」 「おい!爺さん!そこのガキみたいに怪我したくなかったらすぐに消えろ!」 男たちは剣をマルガスに向け、斬りかかるがその直後手斧が宙を斬る。 「人様に剣を向ける・・・その意味を理解しているのか?」 マルガスは一瞬で二人の男の首を刎ねた。 「死ぬ覚悟もなく、剣を人に向けるな小童が・・・」 そういってマルガスはジョシュアの方へと体を向ける 「バカ孫が・・・」 「へへへ・・・やっぱじぃちゃん、つよ・・い・・・な・・・」 助けられた安堵からか、ジョシュアはその場に倒れこむ。 「え!?だ、大丈夫!?きみ!!ちょっと!?」 ジョシュアは遠のいていく意識の中で彼女の声だけが聞こえた。 その声は、とても美しく、優しい声だった。 ・・・・・・ 目を覚ますとそこは見慣れた自分の部屋だった。 「・・・あれ?なんでここに?・・・俺、確か森で・・痛ッ!」 ジョシュアは体を起こし、辺りを見回す。 「もう、起きて大丈夫なの?」 ジョシュアが不思議がっていると、ふいに声を掛けられる。 「え?」 声のした方に顔を向けるとそこには助けた女性がいた。 「あ、おねぇさん・・・ハッ!!あいつらは!?おねぇさん大丈夫!?」 ジョシュアは女性の肩を掴む、女性は少し驚きつつもすぐに微笑んでジョシュアの手を握る。 「ありがとう、貴方のおかげで私は無事よ?本当にありがとう」 そういって彼女は握っていた手を放しジョシュアの頭に手を伸ばす。 「ごめんね?私のせいであんな危険な目に合わせてしまって・・・」 彼女はジョシュアの頭を優しく撫でる。 「お、俺は大丈夫だよ・・・困ってる人は助けなきゃ・・」 そういってジョシュアは顔を背ける。 恥ずかしさで顔が紅潮してる。 そんな姿を見せたくなかったのだ。 「その意気はよいが自信が死んだら意味がないぞジョッシュ・・」 少し怒りのこもった声がジョシュアに投げかけられる。 「じぃちゃん!?」 「この・・・バカ孫がッ!!!!!」 『ドガッ!』 マルガスの鉄拳制裁がジョシュアを襲う。 「痛ってぇぇぇぇぇっ!!!!」 ジョシュアはさっきまで優しく撫でられていた頭部に鉄拳を喰らい悶絶する。 「ジョシュア君!?大丈夫!?」 「まだまだこんなもんじゃないぞ!!ジョッシュ!!!」 「か、勘弁してくれじいちゃぁぁぁん!!!」 ・・・・・ 「大丈夫?ジョシュア君?痛くない?」 「大丈夫だよフィリアお姉ちゃん・・・」 「フンっ!少しは優しく殴ったわい!」 マルガスの制裁を受けた頭を撫でながらジョシュアは椅子に座る。 森で助けた女性の名はフィリアと言い、エルフの女性だという。 「フィリアお姉ちゃんはなんであいつらに追われてたの?」 ジョシュアはそういって隣に座るフィリアに問いかける。 「それは・・・・」 フィリアが口ごもっているとマルガスが口を開く。 「エルフ狩りか・・・」 「・・・・はい」 フィリアは悲しい表情で答える。 今から12年前、リーベン王国はエルフの里を襲撃し、エルフを殲滅したと思われていたが、実際にはまだ少数の生き残りがいる。 その生き残りを殲滅すべく、リーベン王国は極秘裏にエルフ狩りを行っていた。 「もう、エルフ族は私以外残っていません・・・申し訳ありませんでした・・私のせいでとんだご迷惑を・・」 フィリアは顔を伏せ、涙を流す。 「フィリアお姉ちゃん・・・」 フィリアはジョシュアの声にハッとする。 そしてすぐに微笑みながらジョシュアの方へと顔を向ける。 「大丈夫、大丈夫だから・・・ね?ジョシュア君・・・」 「・・・・」 ジョシュアには何も言えなかった。 なんと言えばいいのか、まだ幼いジョシュアにはわからなかったのだ。 「ここに居ればいい」 マルガスがそういってフィリアの頭に手を伸ばし、頭を撫でる。 「え?」 フィリアは一瞬言葉の意味を理解できなかった。 だが、すぐに理解し、慌てた様子でマルガスに答える。 「で、ですが!!またあのような者たちが来たら!!また、迷惑を・・・」 フィリアはそういって再び顔を伏せる。 「もう、嫌なんです・・・私のせいで誰かが傷つくのは・・・」 その姿を見てジョシュアは 「一緒に住もうよ!フィリアお姉ちゃん!!」 無邪気に、明るくフィリアに問いかける。 「ジョシュア君・・・」 「たとえ何があっても俺とじぃちゃんがフィリアお姉ちゃんを守るから!絶対守るから!だから・・・だから!一緒に暮らそうよフィリアお姉ちゃん!!」 ジョシュアはそういってフィリア抱きしめる。 ただ、彼女の涙が見たくないから。 ただ、彼女に笑ってほしいから。 ジョシュアにはフィリアの悲しみを理解することはできない。 だが一つだけわかることがある。 人は一人で生きていくことなど出来ないということだ。 だからジョシュアはフィリアを抱きしめた。 フィリアは彼の真意を理解する。 「ジョシュア君・・・私、私・・・」 フィリアはマルガスを見る。 『コクン』 マルガスは何も言わない、ただ微笑んでうなずくだけだった。 「・・・私、ここに居てもいいの?・・・ここで一緒に暮らしてもいいの?」 フィリアは今にも泣きだしそうな声で問いかける。 「もちろんだよ!俺とじぃちゃんと!一緒に暮らそう?ね?フィリアお姉ちゃん!!」 そういってジョシュアはフィリアに笑顔を向ける。 その瞬間、フィリアは泣き出した。 その涙は悲しみではない、嬉しさの涙だった。 フィリアはジョシュアに抱きしめられたまま泣いた。 これまでの苦しみ、悲しみすべてを吐き出すように。 フィリアは少女のように泣いた。 こうして、ジョシュアとマルガスとフィリアの三人での生活が始まる。 アクストラウム歴709年  フィリアがジョシュアたちと共に暮らして9年の月日が経った。 幼かったジョシュアも今では16歳となり、祖父の仕事であるビーストハントを手伝っていた。 「ただいまぁー!フィリア姉さん!」 「お帰りなさいジョッシュ、お疲れ様」 勢いよく家に入ってくるジョシュアとそれを優しく迎えるフィリア。 今では当たり前の光景だった。 「えっへっへ~フィリア姉さん聞いてくれよ!!俺今日はガラルベアーを仕留めたんだぜ!」 そういってジョシュアは今日の成果を自慢する。 「えぇ!?あのガラルベアーを!?大丈夫!?ケガとかしてない!?」 フィリアはそういってジョシュアの体に触れる。 「だ、大丈夫だって!!ケガなんかしてねぇってフィリア姉さん!!」 ジョシュアは恥ずかしがりながらもフィリアに答える。 「ふっ・・・心配しすぎだな・・フィリア」 二人がそんなやり取りをしていると、一人の青年が現れた。 「リオスにぃ!!」 「リオス君!?」 二人は同時に青年の名を呼ぶ。 彼の名はリオス・マッケーデルン マルガスの元で剣術の修行をしている青年で、ジョシュアの兄弟子である長髪を後ろで束ねており、高身長で眉目秀麗な青年である。 「ジョッシュ、とうとうガラルベアーを倒したのか・・・ようやく一人前のビーストハンターと言うわけか」 そういってリオスはジョシュアの隣の席へと腰を掛ける。 ビーストハンター それは人を襲う凶悪なビースト(魔獣)や山賊、蛮族などのならず者達を狩る者のことをいい、アクストラウムでは人気の職業ではあるが、あまりに危険なので、ハンターギルドで能力を図った後、承認された者のみが正式なビーストハンターとなることができる。 ビーストハンターにはクラスがあり、ソルジャー、コマンダー、ナイト、チャンプの四つにクラス分けがされている。 今回ジョシュアが倒したガラルベアーはコマンダークラスのハンターが倒すレベルのビーストで、このビーストを倒すことができれば、一端のハンターという風潮がある。 「へへへ・・・ちょっと苦戦したけど倒して見せたぜリオスにぃ!!」 「・・そうか・・・これでやっと師匠も認めてくれるんじゃないか?」 「なら良いんだけどなぁ・・・じいちゃん俺には厳しんだよなぁ・・・」 ジョシュアはそういってフィリアが入れてくれたミルクに手を伸ばす。 「ハハハ!いいじゃないか・・・愛情ゆえだよジョッシュ」 リオスは笑いながらジョシュアに言葉を返す。 「ふふふ・・・マルガスさんはジョッシュを大事に思っているからこそ、厳しく当たるのよ?ジョッシュの事が嫌いなわけではないわ?」 フィリアはいつも通り優しく、穏やかにジョシュアに言葉を投げかける。 いつもと変わらない平和な日常であった。 アクストラウム歴709年 紅緑の月 その日は少し肌寒い風が吹いていた。 「もう、冬か?まだ早いような気がするんだけどな・・・」 ジョシュアはそういって巻きを割る。 「そうね・・・まだ紅緑なのに・・・まるで寒地の月並に寒いわね・・・」 フィリアはかまどで調理しながら、外にいるジョシュアに返事を返す。 アクストラウムには六つの月がある。 鳥たちが羽ばたき、暖かな光が差す月 日翔の月 草花が緑に染まり、色鮮やかな世界になる月 緑華の月 大地が枯れ、燃えるような暑さが襲う月 熱砂の月 草花が紅く染まり、物静かな月 紅緑の月 井戸の水が凍り、闇が深くなる月 寒地の月 すべてが凍り、一面が白く、美しい月 氷結の月 この六つの月を一周することにより一年を迎える。 今、ジョシュアたちが過ごす紅緑の月は、熱砂の月の暑さが無くなり、過ごしやすい気候のはずであった。 しかし、その日はとても寒く、そして闇に包まれていた。 「夜になるのも早い・・・なんか変だ・・・」 「ジョッシュ?どうしたの?」 フィリアは真面目な顔をするジョシュアに問いかける。 その瞬間、村の方角から緊急事態を告げる鈴の音が鳴る。 「な、なんだ!?」 ジョシュアはいち早くそれに気づき、巻き割の斧を捨て、そばに置いてあった 剣を背負う。 「ジョッシュ!?」 フィリアはおびえた様子でジョシュアを呼ぶ。 「姉さん今行く!待ってて!!」 言うより先に体は動いていた。 家の中でおびえるフィリアを連れ、ジョシュアは村の方へと向かう。 村は炎に燃え、王国の兵士たちが村人を殺戮していた。 逃げ惑う村人、燃える家、無残に倒れている村人の屍。 泣き叫ぶ子供たち、まるで地獄絵図であった。 「なんだよ・・・これ・・・」 呆然と立ち尽くすジョシュア。 そこに見たことのない鎧を着たマルガスが駆け寄ってくる。 「何をしているジョッシュ!!早く逃げろ!!!」 マルガスは斧と剣を両手に構え、ジョシュアにそう告げる。 「じいちゃん!!俺も戦うよ!!」 ジョシュアはそう言って、剣を抜く。 「馬鹿もんッ!!!」 マルガスはそう叫び、ジョシュアを殴る。 「クッ!!!何すんだよ!!じいちゃん!!!」 ジョシュアは、よろけながらも剣を再び構えようとする。 「よいか、ジョッシュ・・・お前はフィリアを連れて早く逃げろ!」 「わしが時間を稼ぐ!じゃから早く!!」 ジョシュアにマルガスはそう告げ、再び兵士たちに体を向ける。 「奴らの狙いはフィリアじゃ・・・やつらにフィリアを渡すなジョッシュ・・・」 「じいちゃん・・・・でも!!!」 「よいかジョッシュ!!約束じゃ!」 「約束・・・?」 「何があっても、フィリアを守れ!世界を敵に回してもその娘を守れ!」 「約束しろジョッシュ!!わしとお前の最後の約束じゃ!!!」 そういってマルガスはジョシュアの頭を撫でる。 「頼んだぞ、我が孫よ・・・わしの最愛の孫よ・・・」 「・・・・・」 ジョシュアは何も言えなかった。 祖父の真意をわかっているからこそ何も言えなかった。 祖父はここで自分たちを逃がす代わりに死ぬつもりだ。 ジョシュアは拳を握る。 爪が手のひらに刺さるほど、強く、握る。 「・・・じいちゃん・・・わかった・・・俺・・約束する・・・!」 ジョシュアはそういってマルガスに顔を向ける。 その顔は笑顔だった。 これもマルガスから教わったことだった。 どんな時でも笑顔でいろ、そうすれば人生は楽しいものになる。 そうマルガスはジョシュアに伝えていた。 「うむ・・・よい、よい孫じゃ・・・」 マルガスの瞳に涙が見える。 「マルガスさん・・・私・・・」 フィリアはそういって兵士たちに向かおうとする。 しかしジョシュアに腕を掴まれる。 「ジョッシュ!?あ、!!ダメ!このままじゃマルガスさんが!!」 「・・・・・」 ジョシュアはフィリアの手を取り、村から走り去っていく。 ジョシュアは何も言わない。 ただ、フィリアには見えていた。 ジョシュアの瞳からあふれ出る涙が。 「ジョッシュ・・・・」 フィリアは何も言えず、ただジョシュアと共に森へと走っていく。 「頼んだぞ・・・ジョッシュ・・・お前はわしの最愛の孫にして、最後の希望じゃ・・・」 走り去っていくジョシュアにマルガスはそう呟く。 「さーて、わしの最後の仕事じゃな・・」 そういってマルガスは再び兵士達の方へ体を向ける。 兵士達は剣を手に、にじり寄る。 「ふんっ!だらしないのぅ!!こんな老いぼれ相手に警戒しておるのか?」 マルガスはそういって右手に持っていた斧を兵士に向け投げつける。 兵士はそれを避けようと体を逸らす。 しかし逸らした先にはマルガスがいた。 「な!?」 兵士は体勢を崩した状態で剣をマルガスに向けて斬りつける。 しかし、マルガスの左手に持っていた剣に弾かれる。 「フンっ!!!なっとらん!!」 マルガスはそのまま右手で兵士の顔面を殴りつける。 殴られた兵士はそのまま後ろへと飛んでいく。 「な、なんだコイツ・・・」 「化け物かよ・・・!!」 兵士たちが騒ぎ始める。 一連の流れを見ていたものにマルガスが何をしたのか理解している者はいなかった。 「王国の兵士も練度が落ちたものじゃ・・・」 マルガスは自分が投げた斧を拾い、再び構える。 そして声高らかに名乗るのであった。 「我が名はマルガス!!元リーベン王国最強騎士団「リーベンナイツ」の団長にして、リーベン最強の盾と呼ばれた男であるぞ!!!我こそはというものは名乗りでよ!!!我が斧、ストラウスが血を欲しておるぞ!!」 そういってマルガスは兵士たちに向かって走り出す。 マルガスの一振りで、次々に兵士たちが倒れていく。 そこに優しく、温厚なマルガスの面影はなく、ただひたすらに敵を屠る鬼神だけがそこにいた。 「そこまでにされよ!!!マルガス殿!!」 そして一人の男がマルガスの前に現れる。 「お主・・・オーウェンか?」 「お久しぶりです、将軍」 ・・・・・ ジョシュアとフィリアは走った。 ただひたすらに走っていた。 「・・・・・」 お互い何も話さず、だがつないだ手はしっかりと握り、離さないように、離れないように握っていた。 「こ、ここまでくれば・・・」 そういってジョシュアは歩みを止める。 「・・・ごめんなさい」 フィリアはその場に座り込み、謝罪する。 「私のせいで皆・・・私のせいで・・・・」 フィリアは涙を流し謝罪する。 こうなると理解していたはずだった。 自分がいる限り、いつかはこうなる。 誰かが傷つき、誰かが悲しむ。 だからフィリアは時機を見て、この生活から離れようと決めていた。 しかしフィリアはこの生活から離れることができなかった。 幸せだったのだ。 自分を姉のように慕う少年と、自分を孫娘のように可愛がってくれるお爺さん。 本当の家族のように接してくれる二人から離れることはフィリアにはできなかった。 だが、自分のせいでマルガスは死に、ジョシュアは悲しみを堪えてなお、私を守るという。 「私は・・・やっぱりこの世界にいるべきじゃないんだ・・・私は死ぬべきだったんだ・・・」 「・・・ふざけんなっ!!!」 フィリアがそういうと同時にジョシュアが叫ぶ。 「死ぬべきだった?ふざけんじゃねぇ!!!この世界にいるべきじゃなかった?そんなの誰が決めんだよ!!!」 ジョシュアはそう叫ぶとフィリアを抱きしめる。 「死ぬとかいないほうがいいなんて・・・そんなこと言うなよ姉さん・・・俺は姉さんに生きていてもらいたい・・・そばにいて欲しい・・・」 「もう・・・俺を一人にしないでくれ・・・姉さん・・」 その言葉にフィリアは思い出す。 初めて彼に会った時の事を。 彼に抱きしめられ、「一緒に暮らそう」と言われたときのことを。 その時、彼は私を一人にしないためにそう言ってくれた。 「ジョッシュ・・・私・・・でも・・・」 「でも・・・私がいるとまたこういうことが起きるから・・・また誰かが傷ついて、誰かが悲しむから・・・だから・・・」 ジョシュアに抱きしめられたままフィリアは涙を流し、そう告げる。 「俺が守るから・・・姉さんを一生守るから・・・」 ジョシュアはより強くフィリアを抱きしめる。 「そう、じいちゃんと約束したんだ・・・だから姉さん」 ジョシュアはフィリアから体を少し離し、フィリアをまっすぐ見つめる。 「俺と一緒に生きよう・・・たとえ世界中が敵に回っても俺は姉さんを守り続ける・・・だから一緒にいこう姉さん」 その言葉にフィリアはさらに涙を流す。 こんな目にあっても彼は私を姉と呼んでくれる。 私を守ると言ってくれる。 私と一緒に生きてくれるという。 どれだけ私は幸せなのだろう。 なぜ彼はこんなにも優しいのだろうか。 様々な思いがフィリアの中を駆け巡る。 もし、許されるのなら。 もし、たった一つ願いが叶うなら。 私は・・・・ 「私は・・・ジョッシュと生きたい・・・ジョッシュとずっと一緒にいたい!!!」 フィリアはそういってジョシュアにキスをする。 これはエルフに伝わる儀式の一つだった。 エルフはその長寿の中でたった一度しかキスをすることが許されていない。 キスをするということは相手を一生涯かけて愛するという儀式の一つであった。 「ん・・・」 「ぅん・・・」 ジョシュアは再びフィリアを抱きしめる。 フィリアもジョシュアから離れぬよう強く抱き返す。 永遠に思える時間・・・二人は唇を重ね、抱きしめあった。 To be continued
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