第二話 歩み

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第二話 歩み

二人が兵士達から逃げてどれぐらいの時が経ったのだろう。 ジョシュアとフィリアは村の奥にある城塞跡に身を潜めていた。 「さすがに、諦めたかな?」 ジョシュアはそういって腰を地面に下ろす。 フィリアもジョシュアの隣に座り、ジョシュアに寄りかかり、顔を向ける。 「ジョッシュ・・大丈夫?」 フィリアは心配そうな顔をジョシュアに向け、問いかけた。 「あぁ・・・大丈夫だよ姉さん」 ジョシュアはフィリアに心配させないように笑顔で答える。 とは言ったものの、ジョシュアもフィリアも疲労は隠せなかった。 今までの平和な日常は一瞬で崩れ去り、愛する者は死に、住処も無く、今では逃亡生活である。 「これから・・・どうすればいいんだ・・・」 ジョシュアはフィリアに聞こえないように静かにひっそりと呟く。 もはや帰る場所どころか今では兵士に追われる身だ。 どこに行こうが襲われてしまうだろう。 それでも、フィリアを守ると誓った。 そばにいると約束した。 そしてジョシュアは考える。 どこに行けばよいのか、どうすればよいのか。 現状、逃げ延びるには人のいない所に行かなければならない。 しかし追っての追跡も厳しくなる。 そんな状況下でどうするべきか。 ジョシュアは頭を抱える。 「ちょっとジョッシュ!?大丈夫!?」 そんなジョシュアの様子を心配したフィリアが声をかけた。 「あ、あぁ!!わ、わりぃ姉さん!!」 フィリアの声にジョシュアは我に返る。 「急に黙るんだもん・・・何かあったのかと思ったわ・・・」 フィリアはそういってジョシュアの頭に手を伸ばし、頭を撫でる。 「お、おい!?姉さん!?」 突如頭を撫でられたジョシュアは驚きを隠せず、慌ててしまう。 「ジョッシュ・・・ごめんね?私のせいでこんな目に遭わせてしまって・・」 フィリアはジョシュアの頭を撫でながら謝罪する。 「ジョッシュ・・・それでも私といてくれるの?私を守ってくれるの?」 ジョシュアにはフィリアの言いたいことがわかる。 フィリアは自分を犠牲にすべきだと、自分を置いて逃げるべきなのだと、そう言いたいのだ。 「姉さん・・・俺は姉さんのそばにいる。姉さんを守るよ・・・たとえ世界中を敵に回しても俺は姉さんを守るから・・・だから・・・俺と一緒に生きよう」 ジョシュアはそういうと撫でてていたフィリアの手を握る。 「・・・・うん・・・うん!!」 フィリアは涙を浮かべながら頷く。 どんな困難があっても二人で生きていこうと口にしようと思ったがそれを口にするのが恥ずかしかったジョシュアは笑い出す。 それにつられてフィリアも笑いだした。 二人はしばらく笑い続ける。 まるで幼いころのように。 平和だったあの頃のように。 その時、城塞跡の外側から声が聞こえた。 「居たか!?」 「いや、見当たらない!!」 そこにいたのは二人を探しに来た兵士達だった。 「あいつら!!俺たちを探してる!!」 「ど、どうしようジョッシュ・・・!!」 慌てる二人。 どうする・・・。 ジョシュア一人ならばあの程度の兵士達造作もなく倒せるだろう。 だが今はフィリアがそばにいる。 フィリアを守りつつ、あの数を相手にするのは容易ではないだろう。 ここは逃げた方が良い。 そう考えたジョシュアはフィリアの手を掴む。 フィリアは最初戸惑ったが、すぐに意図を理解し、強く握り返す。 「いい?姉さん?タイミングを見計らって走るよ?」 そう言ってジョシュアは走り出すために構える。 フィリアもジョシュアと同じく構える。 兵士たちの様子を伺い、タイミングを計る。 すると自分たちの反対側で物音がした。 「ん!?なんだ!!」 「誰だっ!!」 兵士たちの注意がもの音のする方へと向いたその瞬間をついて、ジョシュアとフィリアは走り出す。 「たっく!なんだ!鹿か!」 兵士の一人がそう言って後ろを見る。 「!?おい!!いたぞ!!!」 「なに!?」 「まてっ!!!」 走り去るジョシュアたち。 それを追う兵士。 「クッ!!大丈夫か?姉さん!!」 「え、えぇ・・大丈夫よジョッシュ・・・!」 ジョシュアはフィリアの心配をしつつ走る速度を上げる。 だが、徐々に差は縮まっていく。 このままでは捕まる!そう思ったジョシュアは 「姉さん!!森だ!!森に入ろう!!」 とフィリアに提案しフィリアもその提案に頷く。 どうやら走るのに精いっぱいで口を開くのも困難のようだ。 そして二人は目の前の森へと入っていく。 「んなっ!!あいつら!!迷いの森に!!」 「自殺願望でもあるのか!?」 兵士たちはそう言って歩みを止める。 今ジョシュアが入った森は近隣の人々からは『導きの森』と呼ばれる迷いの森だった。 木々が生い茂り、入ってきた道すら見えなくなるほどの暗闇が続く森で この森に足を踏み入れたものは、二度と森から出ることはできないと言い伝えられる森だった。 「どうする?」 「・・・クッ!!追うぞ!!」 「くっそ!!楽な仕事だと思ったのによ!!」 そう言って兵士たちはジョシュアたちの後を再び追い始める。 「やっぱりまだ追ってくるか・・・!」 ジョシュアはフィリアの手を引っ張りながら走る。 「ジョッシュ・・・・!前!!」 フィリアが叫ぶ。 その声に気づき、ジョシュアは前を向く。 そこには・・・ 「なっ!!崖!?なんで!?」 そこは断崖絶壁だった。 「ジョッシュ・・・どうしよう・・」 「・・・・姉さんは俺の後ろにいて」 「え?」 「ここで、戦うしかない!」 ジョシュアはそう言って、背中に担いでいた剣を抜き、構える。 「俺が時間を稼ぐ!だから姉さんはそのすきに逃げるんだ!」 「いやっ!!私は逃げない!!ジョッシュのそばにいる!」 そんなやり取りをしている間に兵士たちが追い付く。 「おい!鬼ごっこはここまでだぜ!」 「観念するんだな!!」 ・・・・五人か・・・ ジョシュアは敵の数を把握する。 「そっちこそなっ!!」 そう言ってジョシュアは眼前の敵に斬りかかる。 突然の攻撃に対処しきれなかった兵士の一人が斬られる。 「残り4!!」 そういってジョシュアは再び剣を構えなおし、戦闘態勢をとる。 「な!!」 「こいつ・・・強いぞ!!」 「おい!!ガキにかまうな!!俺たちの目的はその女だ!!」 兵士たちも武器を構える。 「来いよッ!!俺が全員倒す!!」 「舐めるな!!ガキがッ!!!!」 そういって兵士の一人がジョシュアに斬りかかる。 ジョシュアはその剣を弾き、逆に斬りかかる。 「秘技!翔波斬(しょうはざん)!」 ジョシュアはそう叫び、剣を地面ぎりぎりで斬りつけると衝撃波が兵士の一人に襲い掛かる。 「ぐわっ!!!」 「コイツ・・・技使いか!」 「おい!大丈夫か!!」 「あ、あぁ・・・なんとかな・・・」 もう一人の兵士が斬りつけられた兵士を助け起こす。 「クッ!浅かったか!」 ジョシュアは技の反動から、構えを崩す。 「コイツっ!!!」 その隙をついて兵士が再び襲い掛かる。 「ジョッシュッ!!!!!」 フィリアの叫びがこだまする。 姉さん!!! ジョシュアは心の中でそう叫び、目をつむる。 「剣技!華苦無(はなくない)!!!」 直後、辺りに女性の声が響き渡る。 そして、襲い掛かってきた兵士二人が倒れていた。 「え・・・?なんだ・・・」 ジョシュアが目を開け、兵士たちの奥に目を向けるとそこには 口元をマフラーで隠した赤い髪の女性と見慣れた男が立っていた。 「・・・・誰?」 ジョシュアは見知らぬ赤い髪の女性に問いかける。 「ご無事ですか?ジョシュア様」 女性は凛々しい声でジョシュアの名を呼ぶ。 「こ、この野郎!!!」 残った兵士の一人が女性に向かって襲い掛かる。 「あ、危ないっ!!!」 ジョシュアがそう叫んだと同時に兵士の体に刀が突き刺さっていた。 「え?」 ジョシュアが気の抜けた声を出すと同時に効きなれた声がジョシュアを呼ぶ。 「だらしないぞ、ジョッシュ・・・師匠に学ばなかったか?いついかなる時も油断せず、相手から目を逸らすなと・・」 声の主はジョシュアの兄弟子、『リオス・マッケーデルン』だった。 「リオスにぃ!!」 ジョシュアは心底驚いた。 「リオス君・・・」 それはフィリアも同じだった。 「なんとか・・・間に合ったか・・・」 リオスは兵士から剣を抜き去り血を掃う。 「アヤ、すまないが周辺の警戒を」 「御意!リオス様!」 そう言ってアヤと呼ばれた赤い髪の女性は森の奥へと駆けていく。 「無事なようだなジョッシュ」 リオスはそう言ってジョシュアに歩み寄る。 「ま、まぁね・・・なんとかさ・・」 ジョシュアは肩から力が抜けたようにその場に座り込む。 それを見ていたフィリアはジョシュアに走り寄ってくる。 「ジョッシュ!!大丈夫?ケガはない?」 フィリアはジョシュアの体に手を触れ、怪我が無いかどうか探る。 「大丈夫だって、姉さん・・・あははは、心配性だなぁ」 二人のやり取りを見てリオスは微笑む。 「フッ・・・相変わらずで安心したぞジョッシュ」 ・・・・・ ジョシュアはリオスにこれまでの事を説明した。 村が襲われたこと。 マルガスが一人で敵軍に立ち向かったということ。 「そうか・・・師匠が・・」 リオスはそういうと目をつむる。 「リオスにぃ・・・」 「大丈夫だジョッシュ・・・しかし、王国の連中意外と早かったな・・・」 「え?どういうことだリオスにぃ!?」 「俺は師匠からの依頼で王国の動きを探っていたのだ」 「え!?じいちゃんの!?」 「あぁ・・・多分師匠は遅かれ早かれこうなると解っていたのだろう・・・だがその前に知りたかったのだろう、なぜフィリアがここまで狙われるのかを・・・」 「・・・マルガスさん・・・」 二人の会話を聞いていたフィリアは、悲しげにつぶやく。 「・・・それで?何かわかったのリオスにぃ・・」 ジョシュアはそう言ってリオスの方を向く。 「結果としてわからなかった。だが奴らが村を襲うという情報だけは得たからな、それを伝えに来たんだが・・・遅かったか・・」 リオスは村の方を見る。 「リオス様・・・」 気づくとリオスのそばには先ほどの赤い髪の女性が立っていた。 「アヤか・・・どうだ?周辺の状況は?」 「周囲の敵勢力は殲滅しました。この周囲は安全です・・」 アヤと呼ばれた女性はそう言うとジョシュアとフィリアの方を向き、挨拶をする。 「お初にお目にかかります、私はアヤ。アヤ・リーザルと申します」 「あ、どうも・・・・」 「初めまして・・・フィリアです・・」 「アヤは俺の仲間だ、心配するな」 そういってリオスは地図を広げる。 「ジョッシュ、フィリア、お前たちはこの国から出るべきだ」 「でも、どこに逃げても奴らは追ってくるぜ?」 「・・・表ならな・・」 リオスはそう言うと地図を開きある地点を指さす。 「ジョッシュ、これから俺たちはここに行く」 リオスがそう言って指をさした場所はハインラット中立国の中心部『ジャレイン』だった。 「リオスにぃ!!そんな目立つ場所に逃げるのか!?」 ジョシュアがそう言うとリオスはフッと鼻で笑う。 「いったろ?表だったらなって?」 するとアヤがもう一枚の地図を出す。 「これは、ハインラットの地下に広がるもう一つの都市です」 その地図にはハインラット中立国の地下の図が描かれていた。 「リオス君これをどうやって?」 フィリアがリオスに問いかける。 リオスは「内緒だ」と答える。 「この地下都市にいる男に話はつけてある。俺たちもお前たちを守るために同行する」 ・・・話が急すぎる ジョシュアはそう思ったが今の状況ではほかの選択肢はない。 「俺はかまわない、姉さんは?どうする?」 ジョシュアの問いかけにフィリアは 「私はジョッシュと共に行くって決めたから・・・どこへでもついてく!」 そういってフィリアはジョッシュの手を握る。 「・・・よしっ!いこう!目的地はハインラット中立国の地下都市だ!!!」 フィリアの決意を感じ取ったジョシュアは覚悟を決める。 こうしてジョシュアとフィリアはリオスとアヤと言う強力な仲間を得て、目的地を目指す。 目指すハインラット中立国までの道のりは遠く険しい道のりになるだろう。 だがジョシュアには仲間がいる。 共に戦い、信頼できる仲間が。 こうして四人は歩き出す。 そしてその一歩がこれからの世界を決める大事な一歩になるということをこの時は誰も知らない。 To be continued
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