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レグリス(2)
『え、それで終わり? 連絡先交換とかは?』
「してへんよ」
『えーなんでなんでぇ』
電話の向こうで園田が駄々をこねる。ユリの結婚式の写真を編集したからデータ送るし、とメッセージが来たので電話をかけたのだ。普段なら軽く返信するところだが、つい電話をかけてしまったのは、先日のコンビニでの邂逅があったからに違いない。ちょっと聞いてもらう程度でよかったのに、園田が意外に食いついてきたのでさっそく後悔をしているところだった。
『チャンスやんか。元彼がええ感じになって再会とか、むっちゃええシチュエーションやのに』
確かに、確かにそうは思った。だがしかし、だがしかしだ。婚活に足繫く通っているこの日常にあって、元カレ登場ですぐに食いつくとか志がなさすぎる。登録の時に書き込んだ相手に望む希望は、それを根拠に選定した上でお断りした案件の数々は、今日までの空しい気持ちの日々は、一体何だったかと思ってしまう。何より恰好が悪い。
『何それ。それってそんなに拘らなアカンことなんかいな』
「別に拘ってるとかちゃうけど」
『拘ってるやん。厄介な』
たぶん園田の感性が普通なんだろう。その普通に与しえない自分が、今日までパートナーを探して選り好みの末に何の戦果も得ていない状況は、園田などからすれば滑稽そのものだろう。果断即決を地で行く彼女は、仲間のうちで誰よりも早く結婚して、あっと言う間にバツイチになった。
『まあええわ。その辺も含めて事情聴取するで。明日集まろ、召集や』
「え、わざわ? もしかして小林とかも呼ぶん?」
『久々の召集や、小林誘わな話が始まらんやん。あいつ呼んだら須磨浦も連れて来るやろし』
「須磨浦はええけど、小林はめんどくさそう……」
『なにい、めんどくさいんが小林のええとこやん』
そうだろうか、と思いつつ園田が集まろうと言いだすのは珍しいことだと思い出した。彼女には幼稚園の年長になる息子がいて、仕事のときはだいたい実家に預けているはずである。帰りが遅くなっては、園田のあのお母さんがうるさいはずで、ここ何年かはみんなで集まっても、付き合いの悪い須磨浦はともかく、園田がいないことはザラだった。
「遅なるとお母さんうるさいんちゃうの。嫌味言われるとユウ君も可哀そうやん?」
『あーそれな……。ちょっと預けられるとこができてさ。ユウもそこやと喜んで待っててくれるし、ごはんも食べさせてくれるんよ』
「ふうん……」
それは何か怪しい。園田が集まろうと言うのも何か理由がありそうだ。
園田の物言いはかなり気になったが、ほな明日の晩な、と電話を切った。流しっぱなしのテレビでは、ゲストによってはたまに見るバラエティ番組が流れている。それで今日が木曜だと気が付く。そうか明日は金曜日か。住吉とコンビニで不意に遭遇してから二回目の週末に近づいていた。あのコンビニの近くに住んでいるはずの彼とは、あれから一度も出くわしていない。
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