11月22日

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 目を覚ますと、カーテンから朝日が差し込んでいた。また「11月22日」がやって来たのだ。  幸恵はついに、寝込むことに決めた。もうスマホの画面すら見たくない。どうせ今日もまた「11月22日」なのだ。  もううんざりだ。次の日が来ないと分かっているのに、朝食を作り大介を笑顔で見送るのも。フィギュアを折ってしまって泣き喚く息子を慰め、幼稚園へ送ることも。帰ってこないと分かっているのに、大介のために余分に夕食を作って、息子を寝かしつけるのも。  どうせ今日全てサボっても、また目を覚ましたら新しい「11月22日」がやって来るのだ。今日くらい、大介に甘えてもいいだろう。  そうしてしばらく布団にくるまっていると、やがて自分が起きていないことを不審に思ったのだろう。大介が寝室へと入ってきた。 「幸恵ー、どうした。具合でも悪いのか?」  そんな大介の言葉に、幸恵は「ダルくて動けないの」と答えた。なんて主婦失格の台詞なのだろうか。幸恵は自分で自分を責めた。 「そうか、そういう日もあるよな」  それなのに、大介はあっさりと受け入れてくれて、代わりに息子を起こしてくれる。 「ごめんなさい、今日は仕事が溜まってるって言っていたのに」 「ん? そんなこと言ったっけ。まあ気にするなよ。いつも幸恵は家のこと頑張ってくれてるからな。今日くらいはゆっくり休めよ」  そう大介は息子を連れて部屋を出ていく。大介の一言一言が、今の幸恵にとっては罪悪感を募らすものでしかなくて。幸恵は涙がこぼれそうになるのを堪えながら、シーツの裾を握りしめていた。  しばらくして、リビングから息子の泣き声が響いてきた。またフィギュアを折ってしまったのだろう。きっと今頃、自分も忙しいのに大介が慰めてくれている。そうして寝癖がついたまま、急いで仕事に向かうのだろう。  本当にごめんなさい。でも、今日だけは。今回だけは。そう呪文のように心の中で繰り返し呟きながら、幸恵はそのまま布団で横になっていた。  すると何故か、慌てたように大介は部屋に入ってきた。一体どうしたのか。幸恵が起き上がって目を丸くしていると、途端に笑顔で、 「そうだ幸恵、俺が飲みたいって言った酒、買っておいてくれてたろ。ありがとな」 と言ってきた。そうして「行ってきます」とそのまま急いで部屋を出ていった。  まさか、それを言うためだけに戻ってきたというのか。幸恵はしばらく呆気に取られ、起き上がったままその場から動けなかった。
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