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大介が笑った。あの酒を飲んで、確かに笑った。幸恵は信じられない思いだった。まさか、同じ「11月22日」の中で、こうして大介と酒を飲み交わす日が来るなんて。ずっと、ずっと幸恵が待ち望んでいたもの。それが確かにここにあった。
「ほら、幸恵も飲めよ」
そう大介はもう片方のグラスを勧めてくる。幸恵はそれを手にすると、一口飲んでみる。じんわりと、酒の甘みが幸恵の心を満たすように、口の中で広がっていく。
「本当だ。……これ、こんなに美味しいものだったのね」
ずっと手にすることすらなく、飲むことも無くて、むしろ忌々しさすら感じていたもの。それをついに、大介と共に口にすることが出来た。胸がいっぱいで、幸恵はつい笑みをもらしてしまう。
「だろ? 美味いよな、これ」
今日も、これからも、同じ出来事を繰り返すだけだと思っていた。新しい日々を、新しい会話を経験することもないと思っていた。けれど今は、大介の笑顔が、今はとても愛おしいものに思える。大介と共に過ごすこの時間が、とても特別なものに思えた。
そのまま今日は、幸恵と大介と息子、3人で寝室で眠った。目を覚ましたら、また次の「11月22日」がやって来る。そうしたら、大介は今日のことを全て忘れて、以前までの大介に戻ってしまう。
それでも、自分が覚えていればそれでいいと思えた。何回も繰り返す「11月22日」の中で、こうして大介と笑い合いながら酒を酌み交わした「11月22日」もあったのだと、そう思えるだけで、今までの日々を全て許せるような気分でいた。
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