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「は、はあ……」
突然現れた超絶美女からの申し出に、その男はやや腰が引ける。
(ええい面倒だ、悩殺しながらチョコを食わしてやる……)
サツキは自分の口にチョコをくわえたまま、いきなりその男に口づけた。
体を絡み付けるように密着させながら、チョコを口移しで食べさせる。
美女からの口づけと密着という、望外の幸運がと気持ちよさが、魔法のチョコの作用によって、彼の頭の中で何倍にも膨れ上がる。
男は茫然として我を失った表情で、なかば白目をむいていた。
いまだ。
サツキは魔法の手鎌を取り出し、男ののどの当たりを掻っ切る。
白い発光体状の彼の魂は、切れ目から顔をのぞかせたものの、しかし天に昇ることなく、男の体から離れようとしない。
「なに、どうして……」
サツキは歯ぎしりをしながら、思うようにいかない苛立ちをのぞかせる。
男の魂は、サツキによって与えられた快楽を、もっと味わおうとしているかのようであった。
ーーー
そんなメイやサツキの働きぶりを、死神オフィスから遠隔で静かに見守っている者がいた。
彼こそ、数百人にのぼる死神をたばねる、死神界の長老である。
彼には、分っていた。
2人の死神からは、一見同じようで、実は違うものが男たちの頭には植え付けられている。
メイの告白からは、「幸福」が。
一方サツキの口づけからは、「快楽」が。
強烈な「幸福」が注ぎ込まれた時、「もう死んでもいい」と人の心は満ち足りる。
だから人には幸福な瞬間、知らないうちに、死神がそっと近寄るのだ。
しかし「快楽」は「もっと欲しい」という中毒性を引き起こし、この世への執着を生み出してしまう。
……だから、この日本という国は、これまでわれわれ死神界とは少し縁が薄かったんだな、と長老は思索にふける。
そう、彼女たちが赴いた日本には、快楽はあふれているが、幸福は乏しい。
こうして、今日も日本人の寿命は世界に類を見ないほど伸びてゆく。
(完)
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