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一
皆様へご報告がございます。
わたくし、近田大地は本日結婚いたしました。
お相手はかねてよりお付き合いしておりました、二歳年上の男性です。
同性婚ということになりますので、法律的な結婚はできませんが、
自治体で発行しているパートナーシップ証明書をいただきました。
互いの両親や親戚なども歓迎してくれています。
結婚式は来月の末に、海外のこじんまりとした教会で、
わたしたちふたりと、ふたりの両親だけで挙げる予定です。
これから力を合わせ、しあわせな家庭を築いていきたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。
***
山口結愛は仕事場のパソコンを開くと、SNSでそんな書き込みを見つけた。
結愛は地方の過疎が進む地域出身だったため、小学校のクラスはふたつしかなく、学校の同級生は合計五十人余りしかいなかった。
人数が少ないので同級生すべて互いに顔を知っていて、卒業後二十年ほど経った今でも、SNSで「○○私立○○小学校 平成○○年度卒業」というグループが作られており、ほとんどの人が参加している。
地元に残って就職したり親の事業を継いだりしている同級生も多い。
結愛は高校卒業後に都会の調理師専門学校に入学した。専門学校卒業後は某大手飲食店チェーンに就職し、しばらく勤務していたが、一年前に退職して、念願の自分の洋食店を開業することが叶った。
合計八席だけの小規模なお店。結愛以外の店舗スタッフはウエイトレスの学生アルバイトがふたりだけ。
店のオーナーシェフである結愛はもっぱら調理を担当していて、店の事務や管理などは会社勤めをしているときに知り合った友人にやってもらっている。
開業当初は調理するよりも捨てる食材のほうが圧倒的に多く、本当にやっていけるのか不安しかなかったが、最近になりようやく月次で黒字を出せるようになっていた。
飲食店を評価するインターネット上のサイトにも、数はまだ少ないもののぽつぽつと高い評価が付き始めている。
SNSで近田大地の結婚報告を見て、結愛はかなり驚いた。近田とは小学五年と六年で同じクラスだった。少し地味な感じで普通の男の子という印象。学校から帰る方向が真逆だったので、一緒に下校しながらしゃべるということをしたことはない。
SNSのプロフィールを見ると、近田は今は九州のほうのけっこう大きな都市に住んでいて、業務用ソフトウェア会社で営業をしているらしい。
近田の結婚報告のメッセージにはすでに、「おめでとうございます」というような同級生のコメントがいくつも書き込まれていた。「同性婚はまだ少なくて大変かもしれないけど、がんばってね!」などと書いている者もいた。
結愛も、
「ご結婚おめでとうございます。パートナーの方と末永くおしあわせに!」
とお祝いの言葉を書きこんだ。
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