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フッと甘く香る風に全身が反応した。
何だ?この匂いは。
引き寄せられるように向けた視線の先には、ひとりの女性がいた。否、まだ少女に近い。誰とも交ったことがない純潔とは珍しい。
嗚呼、惹かれるとはこういうことなのか。瞬間に知ってしまった。
………吾の伴侶だ。
【吾が守護者となる。誰も手出し無用だ。】
観客席を威圧するように、旋回してやった。
誰しもが驚愕の表情を浮かべていた。神獣に目を付けられたニンゲンは希少だからだ。
ゆっくりと滑降して、目の前に置いてあるキャリーカートに鎮座した。
木元萌歌。
〔吾が守護となろう〕
言葉は通じる筈だ。
「よろしくおねがいします。」
耳に届く声も好ましい。右肩に留まると、微かに微笑むモカに惚れてしまった。
守護者は伴侶として連れ添うことが出来るかどうか、お試し期間中、候補者に同行する権利を与えられる。異性との接触を、極力避ける配慮が為されるが、戸外生活だったので心配もなかった。
最初の“選択”は進むべき方向だが、北上は晩秋、南下は初夏と表現される気温。ニンゲンは南下して海を目指すのが常だったが、モカの判断は皆と真逆の北上を示した。
「暑いの苦手だし、キャンプ装備は秋冬仕様だったの。折り畳み式の薪ストーブはあるけど、ウエットスーツや水着は持ってないし。」
装備で判断したらしい。
それに初日から戸外生活に喜ぶニンゲンだなんて初めてだった。大抵の者は守護者に依存するが、モカはひとりで嬉々として、テントやらを設置して楽しんでいた。
眠ったフリして見ていたら、モカは水を汲み煮沸したり、火を起こして調理したり。穏やかな表情で寛ぐ姿に魅入られていた。
「装備が完璧だな。何か不足しているものはないのか?」
「たぶん。強いて言えば音楽かな?電波ないしスマホが使えないから仕方ないよね。一番のBGMは焚き火の音だわ。」
ふたりで静かに風と焚き火の音を聴く贅沢。だが……
「音楽?」
「うん。喧騒とした日常が嫌で、ソロキャンプが趣味なんだけど、何故か曲を口ずさみながら、作業をしたくなるの。」
銀色の大容量入るコンテナには、食料品から衣服まで、びっしり詰まっていたとはいえ、やはり解せない。
菜食主義と教えると、アーモンドやカシューナッツ、クルミやマカダミアナッツを分けてくれたのだ。
有り得ない。我らが与えることは頻繁にあっても、我らに対して与えられるだなんて見聞はない。
同じバスでやって来た者たちも同じだろうか。
寝袋のミノムシ状態で寝ている彼女に結界を強化して、他のニンゲンを観察しに行った。
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