運命の出会い

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俺の考えは杞憂に終わった。南下したニンゲンたちは、飲み水の争奪戦になっていた。 その集団から外れた場所に、ポツンと横たわるニンゲンがいた。 その男に寄り添うように虎猫の妖者がいた。 〔シヴァのお相手は?〕 〔熟睡中。〕 〔そう。この男は負けん気強くて、あたし好みなの。んふっ。食べごたえありそうよ。〕 舌舐めずりする虎猫は、幾人ものニンゲンの精気をを喰らう妖そのもの。伴侶を目的としない輩は大勢いるのだ。 〔一週間お預けか。〕 〔フフフ…一週間もかからないわ。今日は彼方此方徘徊したから、かなり疲労してるし、寝かせてあげたのよ。シヴァの娘は?〕 〔喰らうには惜しい。〕 〔伴侶候補なのね。〕 此処は朝が1〜12時、昼が13〜24時、夜が25〜36時というサイクルで、気温差があまり発生せず、季節の移ろいもない。 疲労したニンゲンにとって、熱帯夜が12時間続くのは辛かろう。脱水症状に陥りがちだが、虎猫の思うツボだろうな。 南下した場所は(ギルド)【赤】で最も暑く、熱帯夜が有名な地域だ。 ちなみに【黄】は作物を栽培する畑が連なる地域でニンゲンが一番過ごしやすい。 【紫】は氷雪に覆われた寒い地域で、魔獣以外に棲んでいない。【蒼】は水中地域でニンゲンは住めない。 【翠】はモカが滞在している地域で岩壁や砂地が多い。一部は砂漠地帯もあり、ニンゲンには不向きだが、妖者や神獣がいる岩壁の周囲や内側は、快適に過ごせる。彼女が川を目指してに歩いていたのは、正しい判断だと思う。 詮索と介入は異なる。双翼を竦めて、モカの側へ戻った。 やがて自然と絡ませる視線。見えない距離が縮まっていく感覚に、想いは一方的ではないと確信した。 嗚呼、焦れったい。早くこの腕に抱きしめたい。 結局、この一週間、地図の謎以外はナビゲーターの役割だけだなんて思わなかったが。 そういえば、急降下するキャリーカートを停止させたことがあったな。 しかし、自力で一週間生活していたのは事実だ。始めに10万ゼニを給付されるが、使い切らず残しているのも、審判官たちを驚かせた。 最終の選択で、俺との暮らしを優先させてくれた、あの名を叫んでくれた瞬間を、一生忘れないだろう。 【吾はモカの守護者だ。例え離れ離れになったとしても、名を喚べば必ずモカの元に翔んでいく。どんな枷も壁も時も関係ない。】 魂から迸る想いこそ、原動力なのだ。 さて。ヒトの姿になった俺を、目をまんまるにして見つめている娘、モカ。愛しい我が伴侶。 一刻も早くふたりきりになりたくて、抱き上げたまま転移したのはいいが、不慣れなモカは気を失ってしまった。 〔この一週間で、並外れたアンタの魔力には慣れても、転移は初めてなのよ?もう少し労ってあげなさいよバカッ!〕 雅緋(みやび)の元へ連れて行くと怒鳴られた。理不尽だな。 〔ほら、もうじき目が覚めるわ。〕 〔感謝する。〕 再び転移で、自宅のベットに寝かせて、自分も横たわる。顔にかかった黒髪を、そっと撫でつつ微笑んでいた。
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