ちみちゃん。

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ちみちゃん。

 我が家には、ハムスターの“ちみちゃん”がいる。なんでちみちゃん、なんて名前にしたのかと言えば、来た当初あまりにも小さくて“ちんまり”していたのがかわいかったからとしか言いようがない。他にもっとマシな名前あるでしょ、と電話で母には言われた。自分でも正直そう思っている。 『よっぽど可愛がってるのね。ゴールデンハムスターだっけ』  独り暮らしの娘が心配なんだろう。毎週日曜日、必ず夕方までに母に電話をする決まりとなっていた。前に一度、うっかり夜まで遊びほうけてしまって電話を忘れた日には派手に叱られたものである。自分ももうすぐ三十になるというのに、心配性な母親だ。まあ、親にとっては子供はいつまでたっても可愛いわが子、なのかもしれないが。それが娘であれば尚更に。 『早く見せて欲しいわ。夏に遊びに行った時に逢わせて頂戴よ。触っても大丈夫なんでしょ?』 「うん、大人しいから平気。あ、でもケージから出す時は気を付けて。だいぶ大きくなったから見つけやすいけど、それでも変なところに入り込んで探せなくなっちゃう時あるから。猫は液体ってよく言うけどハムスターも液体だと思う。なんであんな狭い隙間に入れちゃうのかさっぱりわかんないよ」 『それで配線とか齧られても怖いものね。わかった、気を付けるわ』  本当は写真の一つも送ってやりたいのだが、いかんせん母は未だにガラケーを使い続けている人である。つまり、重い画像などを受信できないのだ。スマホに替えた方がいいとは言い続けているのだけれど、なんといっても機械音痴だからどうしようもない。せっかく親戚から貰ったパソコンもろくにセットアップできず、結局ほとんど起動しないまま埃をかぶっているという。あれは確かウィンドウズXPだったのではないか。もう起動できたところでとっくにサポートが切れてしまっている。  子煩悩な母は、私が東京の大学を受験すると聞いた時は偉く反対したものだった。大学なら地元にもあるし偏差値も低いものではない、何故そっちではダメなの、と繰り返し言われたものである。ダメも何も、地元の田舎町にあるその大学では、私が学びたいデザインに関する学部が皆無だったのだからどうしようもない。最終的には母が折れて、私は大学から地元を離れて一人暮らしを選び、東京の会社に就職して今に至るというわけだった。かつての夢だったデザイナーにはなれなかったが、広告代理店の仕事も悪くはない。ただ繁忙期には少しばかり忙しくなるためそこだけは母に心配をかけてしまうことになったけれども。 「ちみちゃんには、感謝してるんだよね」  動物が大好きなのはお互い様だ。電話でも、ちみちゃん、の話題で盛り上がることが少なくない。
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