2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
2
初めてミケと会ったのも、花屋の前、建物の影から出ていくミケの姿を見た時だった。
「初めまして!僕はコロだよ!」
その声に、ミケは顔を上げた。そして目が合った瞬間、コロは、ぴゃっと飛び上がった。
黒い綺麗な瞳が、コロを一瞥する。太陽の光がキラキラとミケを照らし、その凛とした瞳の美しさに、そのしなやかな体に、その黒と茶、白が組み合わさった艶やかな毛並みに、コロはきゅんと心臓を射ぬかれてしまった。
「…どうも」
しかし、そんなコロの気持ちなど知らず、ミケはプイッとそっぽを向いて歩いていく。
「待って!ねぇねぇ名前は?一緒に遊ぼうよ!」
そう声を掛けるも、ミケは振り返らない。しゃなりしゃなりと去っていく姿を、コロはぽうっとして見つめていた。
コロは、猫のミケに恋に落ちてしまった。
それからは、商店街にやって来る度にミケを探し、ミケを見つけては声を掛けた。
「ミケ!コロだよ!ねぇねぇ遊ぼうよ!」
「…散歩の途中じゃないの?」
「今、ご主人様は、お話中なんだ!」
ミケが顔を上げると、そこには古書店がある。こちらの主人と源は旧知の仲で、一度立ち寄るとなかなか話が終わらない事は、商店街でも有名だ。
ミケは、コロが待ちぼうけている理由を知り、「そう、ご苦労様」とだけ告げて立ち去ろうとする。
「え!待ってよ!僕らもお喋りしようよ!」
「嫌だよ、君、煩いし」
「酷い!僕は、君の事が好きなのに!」
そう叫んでから、コロは自分が告白してしまった事に気付き、「言っちゃった!」と、恥ずかしそうにその場でくるくると回った。
「…僕は、嫌い」
「えぇ!?」
ガンッと頭を金槌で打たれた音が、コロの頭に響いた。
だが、それでもコロはめげなかった。だって好きになってしまったら、この気持ちは止められない。コロはミケを諦めきれず、ミケを見かける度にアプローチを続けていた。
この日も、そうだ。源に連れられ散歩をしていたコロは、商店街のお茶屋の前で源を待っていた。すると、散歩をしているミケを見かけ、声を掛けた。
「ミケ!今日も君は綺麗だね!」
キラキラ瞳を輝かせ、尻尾を振るコロ。そんなコロに、ミケが深い溜め息を吐いて立ち止まった。
「…悪いけど、僕、オスだし。それに猫だし。犬じゃないし。僕、静かな猫が好きなの」
「…でも、」
「迷惑だから、声かけないで」
はっきりと拒絶されてしまった。恋しい瞳が、もう近寄るなと言っている。
さすがにコロもしょんぼりしていると、同じくお茶屋のお客さんに連れられやって来た犬のブルドックが、コロに声を掛けた。
「ミケは愛想が悪い猫って、この辺じゃ有名だぞ、飼い主はいい奴だけどな」
「そうなの?君、詳しいの?」
「俺は、この商店街に来て長いからな。知ってるか?花屋には、たまに妖精が来るんだ」
「へぇ!面白いな!」
失恋の痛手も忘れ、コロは瞳を輝かせた。
「お前新入りか?」
「うん、ちょっと前に来たんだ!僕は、コロだよ。ご主人様は、源さん!」
「俺はユウジロウだ。源さんの事は良く知ってるぜ、奥さんがよく犬を散歩させてたよ」
「え?奥さんが?でも、僕は来たばかりだよ」
「先代の犬だよ、亡くなったらしい。お前は、その犬の代わりにやって来たんだな」
「…え」
コロは、お茶屋の中に居る源を見上げた。
「僕は代わり?」
最初のコメントを投稿しよう!