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初めてミケと会ったのも、花屋の前、建物の影から出ていくミケの姿を見た時だった。 「初めまして!僕はコロだよ!」 その声に、ミケは顔を上げた。そして目が合った瞬間、コロは、ぴゃっと飛び上がった。 黒い綺麗な瞳が、コロを一瞥する。太陽の光がキラキラとミケを照らし、その凛とした瞳の美しさに、そのしなやかな体に、その黒と茶、白が組み合わさった艶やかな毛並みに、コロはきゅんと心臓を射ぬかれてしまった。 「…どうも」 しかし、そんなコロの気持ちなど知らず、ミケはプイッとそっぽを向いて歩いていく。 「待って!ねぇねぇ名前は?一緒に遊ぼうよ!」 そう声を掛けるも、ミケは振り返らない。しゃなりしゃなりと去っていく姿を、コロはぽうっとして見つめていた。 コロは、猫のミケに恋に落ちてしまった。 それからは、商店街にやって来る度にミケを探し、ミケを見つけては声を掛けた。 「ミケ!コロだよ!ねぇねぇ遊ぼうよ!」 「…散歩の途中じゃないの?」 「今、ご主人様は、お話中なんだ!」 ミケが顔を上げると、そこには古書店がある。こちらの主人と(げん)は旧知の仲で、一度立ち寄るとなかなか話が終わらない事は、商店街でも有名だ。 ミケは、コロが待ちぼうけている理由を知り、「そう、ご苦労様」とだけ告げて立ち去ろうとする。 「え!待ってよ!僕らもお喋りしようよ!」 「嫌だよ、君、煩いし」 「酷い!僕は、君の事が好きなのに!」 そう叫んでから、コロは自分が告白してしまった事に気付き、「言っちゃった!」と、恥ずかしそうにその場でくるくると回った。 「…僕は、嫌い」 「えぇ!?」 ガンッと頭を金槌で打たれた音が、コロの頭に響いた。 だが、それでもコロはめげなかった。だって好きになってしまったら、この気持ちは止められない。コロはミケを諦めきれず、ミケを見かける度にアプローチを続けていた。 この日も、そうだ。源に連れられ散歩をしていたコロは、商店街のお茶屋の前で源を待っていた。すると、散歩をしているミケを見かけ、声を掛けた。 「ミケ!今日も君は綺麗だね!」 キラキラ瞳を輝かせ、尻尾を振るコロ。そんなコロに、ミケが深い溜め息を吐いて立ち止まった。 「…悪いけど、僕、オスだし。それに猫だし。犬じゃないし。僕、静かな猫が好きなの」 「…でも、」 「迷惑だから、声かけないで」 はっきりと拒絶されてしまった。恋しい瞳が、もう近寄るなと言っている。 さすがにコロもしょんぼりしていると、同じくお茶屋のお客さんに連れられやって来た犬のブルドックが、コロに声を掛けた。 「ミケは愛想が悪い猫って、この辺じゃ有名だぞ、飼い主はいい奴だけどな」 「そうなの?君、詳しいの?」 「俺は、この商店街に来て長いからな。知ってるか?花屋には、たまに妖精が来るんだ」 「へぇ!面白いな!」 失恋の痛手も忘れ、コロは瞳を輝かせた。 「お前新入りか?」 「うん、ちょっと前に来たんだ!僕は、コロだよ。ご主人様は、源さん!」 「俺はユウジロウだ。源さんの事は良く知ってるぜ、奥さんがよく犬を散歩させてたよ」 「え?奥さんが?でも、僕は来たばかりだよ」 「先代の犬だよ、亡くなったらしい。お前は、その犬の代わりにやって来たんだな」 「…え」 コロは、お茶屋の中に居る源を見上げた。 「僕は代わり?」
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