夜の海

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ただ、真っ暗な海を横一直線に埋め尽くす金ぴかの巨大な仏様たち、という絵はユーモラスではあるものの、アルカイックスマイルを浮かべ、妙なる音楽(私の想像では雅楽)を奏でながら無言で迫ってくる様子は、どことなく不気味で形容しがたい恐怖があった。 同じ話を聞いても、姉はそんなイメージは抱かなかったらしい。大して怖くもなかったよ、と事も無げに言っているのを聞いて、ひどく驚いた。 子供の私にとっては、泣き出しそうなほど恐ろしかったからだ。 布団に入っても波の音が止まない。耳は閉じられない。だから、どこまでいっても黄金の仏様たちが付いてくる。目蓋を閉じても離れないイメージが、眠りの入り口まで追いかけてくる。怖くて怖くて堪らなかった。 だから、夜にちょっと海まで散歩に行こうよ、と家族に誘われても頑なに拒んだ。だって、仏様に連れ去られてしまう。 決して目を合わせてはならない。夜の海を見てはならない。 そんな風に思い込んでいた。
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