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Only The Flower Knows
彼女のうなじにくちづけをすると、いつも、ちがう花が香る。
昨日は梔子。今日は…マグノリア?
顔をうずめた髪から、通奏低音のように甘く閃く、かすかな蜜の匂い。
ソープではなく、パルファンではなく、彼女が香る。
花に駆りたてられる蜂の衝動。そんなものが自分の中に埋もれていたとは、彼女に会うまで知らなかった。
とうに夜半を過ぎて、月のあまりの眩さに眼ざめた、独りきりの寝台。
姿を求めると、小さな灯りの下、デルヴォーの裸婦に似たまなざしで、彼女は大部の本のページを追っている。
埋もれた修道院の、鍵がかかった書庫で睡っていた、古い、とても古い花の図鑑。
ページに踊る鮮やかな花々。
ありふれた春の花、冬の花。
実在しない国の花。
ひとの声で謳う花。
毒のある花。
幻を誘う花。
ひとに姿を変える花。
降り注ぐ月の光にめまいがして、訊くまいと思うのに訊いてしまう。
「探しているのは、どんな花?」
彼女が顔をあげると、アンジェリカがひんやり香る。
「わたしの祖先よ」
夏の花より誇らしく、彼女の唇が紅くほころぶ。
END
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