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和解
ホームルームも特に問題もなくすんなりと終了した。廊下を走って先生に捕まると厄介なので競歩よろしく早歩きで玄関に到着すると外履きに履き替え急いで門を駆け抜けようとしたところ
「やっぱりな」
聞き覚えのある声に振り返ると嘉人が呆れ顔で立っていた。
「運動神経の計算まで出来ていなかったろ?」
悔しいことに、僕は絶望的に足が遅い。
ついでに言うと驚くほど身体能力が退化していた。そして、その反対に嘉人は頭脳も運動神経も良かった。
天は二物を与えずというが嘉人は顔もいいし背も高い天が福袋的に物を与えた典型的な人間かもしれない。
なんだか悔しいし、それ以前に何を話せばいいのかわからない。昔は二人でいるだけで楽しかったし、何を話したか覚えてないくらい下らない話をいっぱいしていた。
諦めて後ろからついて行くと嘉人は少し歩調を緩めて隣に並ぶ
「どうして俺を避けているのかわからないけど、何か夏月を傷つけたなら謝る」
嘉人は夏月をみることなく、やや俯向き加減でボソりと呟いたが、そのつぶやきはしっかりと夏月に聞こえるほど言葉はハッキリしていた。
思いもしなかった言葉に驚きと怒りがわきあがる。
「何を言っているんだよ、お前が彼女ができて距離を置いたんだろ!だから邪魔しちゃいけないと思って」
嘉人は立ち止まってしっかりと夏月の方を向く。
「俺の気も知らないでお前が付き合えって言ったからだろ!」
「俺の気ってどんな気だよ!自分から告られたことを自慢しておいて!」
って、気?マジで何なんだよ。
「自慢じゃねぇし、お前が・・」
嘉人は何かを言いかけてからここが町中であることに気付いて言葉を詰まらせる。
しばらく無言で冷えた空気が流れていたが夏月もどうすることも出来ず黙って歩いていた。
こんな空気だと一緒に歩く意味があるんだろうか?イヤホンで曲を聴きたいところだけど、そんなことをやれる雰囲気じゃ無いし。マジで何がしたいんだ?
結局、電車の中でも沈黙は続き家の前に到着した。
夏月はやっと解放されると思いほっとしたところで嘉人が思いもしないことを言い出した。
「部屋に寄っていけよ」
は?これ以上重い空気に耐えられない。
「行かない」と言おうとした時、強く腕を引かれてそのまま部屋に連れ込まれた。
階段を上る途中で嘉人のお母さんに見つかり
「夏月君じゃない、家に来るのは久しぶりね!受験だったり入学だったり忙しかったから、嘉人がいつもつまらなそうにしていたから、これからも仲良くしてね」
ニコニコと微笑む母親に対して
「余計なこと言わなくていいから」
これ以上なにか言われるとたまらないとばかりに急いで階段を上りきった。
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