優しさの亡い世界

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 少女は懸命に優しさというものを説いた。  これまで彼女を煙たがっていた者たちも、次第にその言葉に耳を貸すようになった。  それでもやはり、村同士の争いは絶えなかった。少女は自分がいつ死んでもいいようにと、それまで読んだ小説のように優しさというものを記すことに決めた。  優しさというものは、双方にあって初めて機能するものなのかもしれない。そう結論づけた少女は、よその村に行き、優しさを伝えようと考えた。  それは危険な行為でもあった。しかし、少女は優しさを広めることが自らの使命のように感じていた。  村の袂で、少女は奇襲と間違われ、門番の男に捕らわれた。しかし少女にとってそれは想定内のことであった。  少女が彼に長の元へ連れて行って欲しいと頼んだところ、彼は眉をひそめつつ、少女の縛られた手を引いた。  少女の話を聞いた村の長は、その言葉たちを笑い飛ばした。  少女は何度も説得すれば受け入れてもらえると考えていた。彼女の読んだ小説には、「人は皆根底に優しい心を持っている」と、そう書かれていたからだ。村民だって、彼女の言葉に耳を貸すようになったのだ。  しかし、長はそれ以上彼女の話を聞こうとはしなかった。彼女を牢屋に幽閉するよう命令すると、彼は少女に背を向け、そのまま去っていった。  牢に閉じ込められた彼女は、食糧も与えられず、次第に衰弱していった。  村民の誰も、彼女を助けに来ない。それでも少女は村民たちの優しさを信じていた。  少女はその胸に寂しさを抱いた。もしかしたら自分は、誰かに感謝されたかったのかもしれない。誰かにただ一言、あのとき知った言葉を、「ありがとう」という言葉を贈られたかっただけなのかもしれない。そう考えた少女は、自らの行動を少しだけ後悔した。  ほどなくして、一人の少女はその生に幕を下ろした。
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