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やりたいこと、やれないこと
ついにやってきました。山です。晴野さんに連れられて、てくてくと山を登っている。最初は緩やかな坂道だったのが、気が付いたら舗装がなくなっていて、さらに気が付いたら、うっそうとした山の中だった。でもたしかに、そこまで急勾配なわけではなく、誘われたときに言われた通り、のんびりしたハイキングくらいの道だ。
「天崎さん大丈夫?」
「はい、問題ありません」
「もう少し行った先に公園があるから、そこで休もう」
「わかりました」
晴野さんに言われた通りすぐに公園に到着した。小さな池とベンチが並んでいて同じようにハイキングをしていたと思しき人々が休憩している。聞けば公園に神社が隣接しているそうで、そこで一つ目の御朱印をいただくそうだ。
「はいこれ」
「御朱印帳ですか?」
「そう。これが天崎さんの分」
そう言って晴野さんが差し出した御朱印帳は、表紙に華やかな桜が刺繍されたとても可愛らしいものだった。
「えっと、おいくらですか」
「いいよ。それは今日付き合ってくれたお礼にあげる。だからまた別のところに行くときも付き合ってよ」
「……仕方ないですね」
やっぱり晴野さんの押しの強さには、勝てないみたいだ。晴野さんについて神社に向かいお参りをする。その後社務所で御朱印をいただく。
「天崎さんの御朱印見せて」
「晴野さんのものと同じなのでは?」
そう言いながらも御朱印帳を広げてみせると、晴野さんのものとは全然違った。同じものが書いてある……? わけではない??
「書いた人が違うんだよ」
「それでこんなにも違うのですか?」
「違うよー。人によって癖があるの。だから2人で来たかったんだ」
そういうわけか。本当に同じものが書いてあるとは思えないくらいに、違う書き方でびっくりした。同じなのは紋のハンコだけでは?
その後、また山を歩いて違う神社に向かう。次の御朱印をいただいた後で小さなカフェでお昼ごはんを食べて、また違う神社へ。そうこうして予定の社寺をすべて回ったときには閉門ぎりぎりの時間だった。
「全部もらえた! 良かった!!」
「結構回れるものですね。さすがに疲れました」
「お疲れ様! 付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして。夕ごはんの予定は決まっているのですか?」
「もちろん。さあ行こうか」
晴野さんと並んで夕ごはんを食べに向かう。なんだか普通に一緒に歩いているけど、よく考えると不思議なことだ。私は元々とてもインドアで、休みの日はできる限り家で過ごしたいタイプだ。なのにこうして会社の同期と御朱印帳片手にハイキングをしている。どうやら私のアンテナはずいぶん鈍っていたようで。やりたいと思うこと、面白そうだと思うことをキャッチできずにいたらしい。
「ここなんだけどどうかな?」
「おいしそうですね。入りましょう」
もう少し晴野さんと話してみよう。なにかもっと、楽しいことが見つかるかもしれない。
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