交友

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「ねえ、夜空さん」 「なに、皐月さん」 「今日はいい天気だね」 「あなた、天気のことしか頭にないの?」  なんて、夜空さんは少し驚いたような、呆れたような顔をする。別にそういうわけじゃない。わたしだって、ちゃんと理由があって天気の話をすることもある。そうじゃないことが大半だけど。 「天気いいからさ、ベランダでお昼食べようよ」 「制服が汚れるから嫌」  わあ、にべもない答え! 少しの猶予もなかったよ? 「もうちょっと検討しない?」 「しない」 「残念だなあ」  わたしがそう言い終わる前に、夜空さんはお弁当を開いている。一考の価値もなかったのだろうか? 本当に残念だ。  とはいえ本当に外で食べるとなると、ベランダは埃っぽいし泥っぽいので夜空さんの意見が正しい。今日も今日とて、のんびり教室でしゃべりながらお弁当を食べるとしよう。  夜空さんは積極的にわたしに関わろうとはしないけど、かといって排斥するようなこともない。そこまで視界に入ってないか、邪魔だと思われていないかどちらかだろう。  どっちでもいいけど。本当にどっちでもいいんだ。夜空さんに邪険にされないのであればそれで。 「夜空さん」 「なに」 「夜空さんのお弁当は毎日卵焼きが入ってるね」 「そうね。これ、だし巻き卵なの」  おお、ちょっと会話が進展した。そう、最近夜空さんは2センテンス以上の言葉を発してくれるようになった。嬉しいものだ。わたしの幸せは安いものかもしれないけれど、確実に幸せだと言えることだから、ありだと思う。 「もしかして自分で作ってるの?」 「そうよ」 「えらいねえ。わたしは料理できないんだ」 「レシピ通りに作れば、大体なんとかなるわよ」 「料理できる人の台詞だ」  できない人は、そもそもレシピを理解できないから料理できないんだよ。まず計量方法がわからない、投入タイミングや順番、火加減なんかもわからない。 「わからないならわかる人に聞けばいいのに」 「じゃあ夜空さん教えてよ」 「今度ね」  うーーん? これはうまくかわされたのかな? それとも『今度』を用意してくれたってことなのかな? わからないけど、悪い傾向じゃない。それこそこの『わからない』を聞いてみるのもありかもしれない。だって夜空さん、めっちゃそわそわしてるもん。聞いてほしいことがあるんでしょう。 「夜空さん」 「な、なにかしら」 「今度っていつ?」 「今度、よ。皐月さん」  やっぱり夜空さんはかわいい。
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