4.オムライス(夜メシ)

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4.オムライス(夜メシ)

「お嬢様、夕食はオムライスに致しましょう」 「オムライス? riceということはご飯がはいっているんですの? 」 「その通りでございます。オムライスとは、ケチャップという調味料と混ぜた白米の上に、薄く焼いた卵を被せるというものでございます」 「名前を聞いただけで美味しそうですわ......」 「ええ、それでは行きましょう」 -オムライス専門店- ついたのは、少し森のようになっている場所の店だった。 「ふーむ。なんだか叔父様の別荘を思い出しますわ。もっと大きかったけれど......」 「それでは、入りましょうか」 チリンチリンと音を鳴らし迎え入れる森の奥の隠れ家。暖色系の明かりに包まれた空間が、心を癒してくれる。 「なんだか落ち着きますわぁ」 「そうですねぇ。それでは、席につきましょう」 選んだのはテーブル席。すっきりとした木製テーブル。 「私は普通のオムライスを」 「では、私もそれに致しますわ」 「はい、かしこまりました」 今正に自分が食べるオムライスが作られている。その事実を心に留め、この時間を静かに楽しむ。 「お待たせしました、特製オムライスです」 皿が自分の前に来た直ぐ後に、オムライスから湯気が立ち始めた。 まずは見た目。その形の美しさ。まるで純金。そこにかかっているキラキラした赤い調味料ケチャップ。今までで見たことが無いはずなのにどこか懐かしさを感じる。 実食。銀色のスプーン。さっきもいった純金とマッチしている。まるで金銀財宝だ。 スプーンをあてがい、卵を裂いていく。さっきよりも多く湯気が立ち、匂いを運んでくる。その匂いを嗅いだら我慢は到底できない。 ケチャップの味とよく合う白米。それに乱入し、絡み付くフワトロ卵。味蕾の内側まで喜ばせるその癒し系卵が舌にもハグをし、そのまま胃へ流れ込む。 再び一口パクッ。以下同文。しかしそれは悪いことではない。さっきの幸せが同じように襲ってくるのだ。永遠に続くかも知れないそのハーモニーが脳内麻薬を分泌させる。 異次元から引き戻してくれる存在、ニンジン。彼が居なかったらオムライスを食べた人は永遠に帰って来られないだろう。それを妨げるのがタマネギだ。彼の甘さがオムライスの中毒性を引き立てる。 っ!! 肉! 唐突な肉! すべての具材に卵が侵蝕しているにも関わらず肉は、俺はここにいるぞと、俺を忘れることはさせないぞと、語りかけてくる。 最後の一口。永遠のオムライスにも終わりがくる。悲しい現実とオムライスを噛み締めながら、食事を終えた。 「おいシィイイイイイイイイイ!!!! 」 -店を出た後- 「フワトロ卵とはあれのことをいうのですわね。確かにフワトロとしか表現できない食感でしたわ」 「そうですね。しかし、これもまだまだ序の口。美味しい庶民メシは無限大でございます」 「む、無限大......」 庶民メシに取りつかれた明日香。果たして彼女は高級料理に帰ってくるのか?
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