おでん(夜メシ)

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おでん(夜メシ)

「最近......庶民メシ食べていませんわ」 コタツに下半身を埋め、ミカンの皮を剥きながら、明日香はいった。 「じいやさんも数ヶ月帰ってきませんね。どーしちゃったんでしょう」 同じコタツにいた虎太朗も呟いた。 暫くそうしていると、玄関のドアがガチャッと音をたてて開き、じいやが帰ってきた。 「じいや! どこいってんですの? 」 「いやぁ、自分で調べるにも限界がありまして、昔の友人のところにね。いやそれより、庶民メシが見つかりましたぞ」 「本当ですの?! 」 「ええ、本当です」 じいやは、肩の雪を振り払いながら言った。 「その名も、おでん」 「O.DE.N? 」 「出汁などと共に具材を煮込み、薬味をつけて食べる庶民メシでございます」 「お味噌汁も確か出汁でしたわね。つまり美味しいに違いありませんわ!! 」 じいやはすぐに台所に立ち、おでんを作り始めた。 立ち込めるいい香り。それは日本人の本能に訴えかけて来るような、出汁の香り。 両手鍋によって持ってこられたそれは、冬の代表格、おでんである。 何を食べようか迷ってしまう。それが悪いことでもあり、いいことでもあるのだ。この時間が、おでんを食べる時の、一番ワクワクする瞬間なのだから。 手始めに、ちくわから。練り物が嫌いな人は多分いないだろう。おでんの代表的具材なのだから。 ふーふーと冷ました後、口に入れた瞬間、反射で、はふはふしてしまう。擬音が多くなってしまって申し訳無い。 味の感想を忘れていたが、言うまでもない。旨いにきまっている。ちくわ本来の香りと、出汁が口の中で混ざり合い、絶妙な味を引き出しているのだった。 次はこんにゃく。ジャパンが生み出した最強の衝撃吸収材。プルプルな見た目は、ゼリーを彷彿とさせるが、その実態は、まるでグミのような固さ。しかし、決して甘くない。 切れ目に出汁が入り込んでいる。それをヒョイと一口。出汁が染み込まない分、味はちくわよりも劣る。しかし、それとは比にならない弾力。口の中が楽しくてしょうがない。 最後は勿論、皆大好きおでんの具。大根である。 なんという出汁の染み具合。初めて見る人は、これが白いものだったといっても信じないだろう。 一度皿に取り、四つに切り分ける。その時点で汁が溢れだし、勿体無いとも感じた。 実食。結論は旨い。旨い旨い旨い旨い旨い。汁が口にぼわって、すごく広がる。舌で潰すことができるぐらい柔らかい。これは大根を食べる、というより、大根を飲む、というのが正しいだろうか。 種類で分けて、竹串に刺して食べるのも、なかなかに『オツ』である。 滅多にそんなことはないが、もし味に飽きてしまったのなら、薬味をつけるといいだろう。味噌ダレ。ゆず胡椒。好きなものを選ぶといいだろう。作者のおすすめは、味噌ダレである。 工夫を凝らして食べたおでんも、遂に終わりを迎えてしまった。最後に出汁をごくごくと飲み干し、終わりとした。 「おいシィイイイイイイイイい!!!! 」 -数分後- 「冷えた体におでん......最高ですわ!! 」 「僕も久々に食べましたぁ」 「しかし、これもまだまだ」 「序の口......ですわよね」 「その通りでございます。庶民メシは、まだ終わりません」 庶民メシ探求の物語は、まだまだ続きそうだ。
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