3.ラーメン(昼メシ)

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3.ラーメン(昼メシ)

「調べて参りましたぞお嬢様」 「つ、ついに、庶民メシを......」 じいやはスマートフォンを片手にフリック操作を行い、記念すべき一つ目の庶民メシの名前をいった。 「ラーメン、でございます」 「ラーメン、ですの? 」 「はい、ラーメンとは中国から日本に渡り、今や庶民メシの定番的な物でございます。そんなラーメンの中でも、今日は家系ラーメンを食べていきたいと思います」 「イエケイラーメン? なんだか知らないけど、楽しみですわ! 」 「ええ、それでは行きましょう」 -家系ラーメン屋- ついたのは、少し小さめなラーメン屋だった。 「ここがラーメン屋、ですの? 」 「はい、それでは早速入りましょう」 扉を開けると香る匂い。それはまるで女神の抱擁のように店に入る人々を魅了する。 「すぅー、はぁー。良い香りですわぁ」 なんとも言えない腹の空く匂い。 「ではお嬢様。食券を買いましょう」 「え? 席についたらお食事が出るのではありませんの? 」 「はい、ラーメン屋では食券を先に買って、それを店員さんに渡してから席につくのです」 「なるほど。じゃあ私はこの普通のラーメンを」 「では私もそのラーメンを」 食券販売機の音も、私たちのワクワクする心を引き立ててくれる。 「これでお願いしますわ」 「かしこまりましたぁ。お好みはどうなさいますかぁ? 」 「はい? 」 「お嬢様、家系ラーメン屋では油の多さ、味の濃さ、麺の固さを好みに合わせて決められるのです」 「な、なるほど、奥が深いですわね......じゃあ油は少なめで」 「私は麺を柔らかめで」 「かしこまりましたぁ」 店員が食券を持ち、大声で暗号のような言葉をいった。メニューの内容だ。 「楽しみですわね」 「そうですね」 -数分後- 「お待たせしましたぁ少なめと柔らかめでーす」 「き、来ましたわね」 じいやが割り箸をとり、差し出した。 「で、では、庶民メシを......」 明日香は禁忌に触れるような感覚を感じながら割り箸を割り、麺を挟み、持ち上げた。 表面が油でテカテカしている。しかしそれが食欲を増進させ、催眠にかかったように麺に食らいつく。 ズズズズズッと幸福の塊が口の中に入り込んでくる。縮れた麺がスープを掴んで離さず、味を届けてくれる。まるでスープの宅急便。いや速達便。一口食べたらもう喋る隙はない。スープに浸ったホウレン草を麺に絡め、二度目の祝福。ホウレン草にわずかに残った野菜の食感が、この幸せに慣れさせてくれない。 じいやに教えてもらったgarlicpaste(おろしニンニク)を駆使し、更に食欲を増す。もうそれは悪魔の所業であった。ニンニクの香りが鼻に直撃し、脳を直接刺激してくる。このラーメンを食べろ、食べろと悪魔がささやき、手が止まらない。 暫し休息。冷水を飲む。熱くなった体に染み渡り、浄化を進める。 それが終われば麺、麺、麺の怒濤のラッシュ。咀嚼によって麺の食感が舌にマッサージを行う。 そして海苔。立ててある黒いものをスープに溺れさせ、吸収させる。そして一口でパクっと。瞬間口の中にスープがじわっと広がり、喉をゴクッと鳴らすほどにスープを胃袋に迎え入れる。 チャーシュー。それは宇宙。この世のすべて。その世界の真実が詰まったような物体を口に入れればもう、修行を十年積んだ僧侶のような気分になる。 そして別れを惜しむかのようにスープを啜る......。 「おいシィイイイイイイイイ!!!! 」 -店を出た後- 「この世にはこんな庶民メシがあるのですわね」 「ええ、しかし先ほどのラーメンもまだ片足も浸かっていない程度の物。庶民メシはまだまだありますぞ」 「あんなに美味しい物が、まだまだ? 」 明日香は期待を胸に抱き、次の食事の時間を待った。
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