5.味噌汁(朝メシ)

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5.味噌汁(朝メシ)

「おはようございますお嬢様」 浴衣姿の明日香を出迎えたのは、お茶を淹れているじいやだった。 「おはようじいや。旅館とは楽しいものですわね。お風呂は狭かったけれど、あれは『温泉』という元気がでる湯なのでしょう? 」 「はい。しかし旅館のよさは温泉だけではないのです。やはり、お食事です」 「き、来ましたわね庶民メシ。今回はどのような? 」 「その名も、味噌汁でございます」 「ッ! 聞いたことがありますわ! Misosoup(ミソスープ)ですわね! 」 「はい。味噌汁とは、古くから日本で愛されてきた朝食のスープでございます。野菜がふんだんに使われており、味噌から塩分も摂取できることから、安定した栄養が摂れると人気のものでございます」 「では早速! 」 「はい只今。」 -数分後- 「お待たせ致しました。こちら当旅館自慢の、お味噌汁でございます」 運んできた者が去ったあと、明日香は味噌汁を見てゴクリと喉を鳴らした。 上品な佇まい。今まで日本食を代表してきた風格が備わっている。行儀よくまずは、挨拶から。 下に溜まった味噌を箸で混ぜて、巻き上げていく。味噌がお椀全体に広がり、真・味噌汁に変化した。 そして汁を啜る。行列を作り、口に流れ込む旨味の塊。ほっとするようなその丁度いい温度が、心まで温めてくれる。 次に具だ。イチョウ型に切られた大根に汁が浸透し、口でジュワッと広がる。肉汁と間違えてしまうかもしれない。 同じく根菜、ニンジン。またイチョウ型に切られていたが、人参特有の味が味噌汁とよいマッチをしている。 豆腐、豆腐だ。ピカピカ光って美しい。形もまた美しい。中国のものとは違う日本が生んだ柔らかい豆腐。すぐに崩れてしまいそうな彼女を、自身の口に迎え入れて保護させてもらうことにしよう。汁が染みず、豆腐本来の味が広がり、舌に旨味連鎖からの解放として、休息を与える。 次は味噌汁最強の具(作者調べ)であるお麩だ。箸で摘まめばよく熟した果実のようにポタポタと汁が垂れ、味噌の湖にきれいな円状の波を発生させる。 ついに口の中に入り込む最強。舌で潰すだけでドグシャアと汁が溢れだし、汁で溺れそうになる。 上記のことを繰り返し繰り返し、やがて最後の一口である汁。ふんわりと胃に流れる。上品な娘は最後まで上品なまま去る。それが日本の代表、味噌汁である。 「おいシィーイイイイイイイイイ!!!!」 -数分後- 「お、お上品でしたわ。さすが日本食代表」 「ええ。しかし、味噌汁だけで庶民メシを堪能した気になっていては、庶民メシの神に叱られますぞ。庶民メシは朽ちません」 「しょ、庶民メシィイイイイ! 」 日本食を食べた明日香。上品さを学び、これからの自分に生かすことにした。
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