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8.TKG(朝メシ)
じいやが友人の大家に借りたアパートで、三人は朝を迎えた。
「おはようございますお嬢様、田中様。朝メシ、の準備が出来ました」
「おはようじいや。今日の庶民メシはなんですの? 」
「ズバリ『T・K・G』でございます」
その言葉を聞いた瞬間、明日香は目をキラキラ光らせていた。
「あ、あのツィーケィズィーですの!? 伝説の!? 庶民メシの朝代表の! ツィーケィズィー!! 」
「卵かけご飯か。懐かしいなぁ。いろんなトッピングを試したっけ。ツナマヨ入れたり納豆入れたり、やりたい放題だったなぁ」
虎太朗は今までの日々を思い出していた。
「トッピングもいいですが、今回は卵と醤油だけで頂きましょう」
「卵かけご飯は、生の卵を使い、白米に割り入れることから、日本特有の文化とされています。最近は、外人の方が衛生基準に基づいた生卵を使いTKGを味わう、なんていうことがあるそうです。豆知識ですが、世の中には、TKG専用のふりかけがあるらしいです」
「日本特有......それは凄いですわね! 」
「それでは、ただいまお持ちいたします」
じいやが運んできたのは、白米と醤油、そして生卵である。
このセットだけで作るものといったら、卵かけご飯。すぐさま生卵を手に取る。
机の角に殻をぶつけて割り、両親指で割れ目を開く。中から出てきたのは生命。この世で一番美しいものである。その生命を食べるとき、人はこう言う、『いただきます』と。
箸でかき混ぜる感覚が、指に伝わってくる。これからこの黄金を食べるのだと実感する。
白身が混ざり終えるまでのこの時間がもどかしい。しかしこの時間こそ、卵かけご飯の美味しさの秘訣。空腹は最高のスパイス。卵かけご飯を開発した人物は、こういうことが言いたかったのかもしれない。
混ぜることに夢中になっていると、自身の腹が、我慢の限界である合図を送る。グウウウと。それで目が覚めた。気づいたときには、白身は混ざりきっていた。
ついにこの時が来た。ホカホカ、湯気を纏った白米に失礼ながら穴を空け、卵を迎え入れる準備をさせていただく。
トロトロと、流れていく溶き卵。白米に染み渡って行く。思わず目を細め、その眩しさに感激した。
醤油のいれ加減で、卵かけご飯の美味しさが変わるといっても過言ではない。慎重に、薬を調合するように入れていく。
見事な配分である。混ぜ混ぜタイム。もうこれはアルティメットご飯。インビジブルご飯である。
実食。箸で掬い上げると、ホロホロとこぼれ落ちる金塊。それをかき集めるかの如く口に放り込む。舌に触れた瞬間とろける全身。畳み掛けてくる醤油の塩味。ベストマッチである。
箸を使うのが煩わしくなり、スプーンを使った。箸と違いこぼれない。その分、口に入れたときの衝撃は、言葉で表せない。
最後の最後までスプーンで集め、口にかきこんで行く。
「おいシィイイイイイイイイイ!!! 」
-数分後-
「こんなものが毎日食べられる庶民は幸せ者ですわね。下手なフカヒレ(?)より全然美味しいですわ」
「しかしお嬢様。このTKGもまだ庶民メシの真髄には程遠い。果てない探求をしていきましょうぞ」
「僕もお手伝いしますよ! 」
「は、はい! よろしくお願いしますわ! 」
これからも三人、庶民メシという名の秘宝、財宝を集めるのであった。
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