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オーベルジュ、といっても泊まりではなく、ドライブしてご飯を食べて、という主旨らしい。車の運転は赤木さんだろうか。だとすると……ちょっとデートらしくない。
でも、そんな懸念は不要だった。ボスが自らの運転で私を迎えにきてくれたのだ。車はいつものマイバッハではなく、キャデラックのエスカレードだった。
「ボス、車を何台お持ちなんですか」
「デートだから名前で呼んでくれ。車は三台だ。マイバッハとこれ、もう一台はレクサスだ」
「三台も……」
世界が違う、と会話をするたびに叫びたくなる。でも、そんなことをして何になるのだろう。ボス……奏さんはわたしを好きだと言ってくれた。もしも奏さんが「世界が違う」事に拘る人だったら、たとえ私を好きでも告白しないだろうし、ましてやデートに誘うこともないはずだ。
でも、意識してしまうと何をどう喋れば良いのか。普段は仕事を介しているから滞りなく喋れるけれども、いざ改まってデート、となるときっかけが掴めない。
「あの、伺いたいことがあるんです」
「敬語もなしにしてくれ。オレはプライベートでは対等でありたいんだ。みくちゃん」
運転しながら助手席に座るわたしをちらり、と見る。
「奏さん、以前にわたしがみくちゃんについて言及したのを根に持ってらっしゃるんですか」
「だから、敬語はなし」
「あ……」
そう言われても、どうしたって今までの癖が出てしまう。
軽く咳払いをして、言い直す。
「奏さん、以前にわたしがみくちゃんについて言及したの、根に持ってるの?」
ああ……ものすごい違和感だ。ボスに対して敬語を使わずに喋るなんて。奏さん、って名前で呼ぶことだって慣れなくて、舌を噛みそうになるっていうのに。
「本当にわからないか? オレが誰なのか」
「誰って、奏さんじゃないですか」
「美空の記憶の中に、今のオレじゃなくて別のオレはいないの?」
訳がわからない。今の奏さんじゃない、別の奏さん?
「みくちゃん、ずっと一緒にいてね。ずっとずっと遊ぼうね」
奏さんはまるで何かのセリフを言うかの如くその言葉を口にした。あれ? でも……なんだろう、聞いた覚えがあるような……。
「えっ……、え?」
「やっとわかったか」
ハンドルを切りながら奏さんが嬉しそうに笑う。
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