最終章 忘れていた約束

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 奏さんはちらり、とわたしを見た。 「オレの祖母はオレのことをとても可愛がってくれて、オレも祖母が大好きだった。  小さいときは毎週末祖母と過ごした。学校に上がってからは習い事も増えたから、学期終わりの休みくらいしか会えなかったがな。祖母の家は葉山だから、夏休みは一色海岸でよく泳いだものだ」  社長室に飾られていた写真。写っていたお祖母さんらしき人。縁側。あの女の子のはにかんだ笑顔。そしてその彼女……かなちゃんを愛おしそうに見ていたあの人が、奏さんのお祖母さんなら、それなら……。 「奏さんが、かなちゃんだったんですか」  奏さんはれっきとした男性で、かなちゃんは、女の子……ううん、わたしが「女の子」だと思い込んでいただけだ。 「祖母は、アルツハイマーを発症してオレのことを自分の娘だと思い込んでいた。名前も、オレの母は「加奈子」だから「かなちゃん」と呼んでいたらしい。  オレの幼少期は母の幼い頃にそっくりだったらしいし、オレは当時おとなしくてぷくぷくしてたし、色白だったから祖母以外からもよく女の子と間違われたからな」  頭の中が真っ白になる。あのかなちゃんが奏さんだなんて……まさかの巡り合わせだ。  呆気に取られているわたしに、当時の記憶が鮮明に甦ってきた。
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