最終章 忘れていた約束

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 真夏の昼間だった。おばあちゃんの家から駄菓子屋に向かう途中で道に迷い、途方に暮れていたときに目の前にシャボン玉が飛んできた。  そのシャボン玉を追いかけ、生垣をかき分けると目の前に広い庭が広がっていた。  そのお庭ではスプリンクラーが回っていて、小さな虹ができていたのを覚えている。かなちゃんは庭で一人、シャボン玉を吹いていた。 「だあれ?」  小首を傾げて無邪気な声で聞いてくるその様子は、天使みたいに可愛らしかった。  自己紹介するとかなちゃんは「一緒に遊ぼう」と誘ってくれて、二人でお絵描きしたりシャボン玉を吹いたりした。  かなちゃんはとても愛らしくて素直で、わたしはかなちゃんと遊ぶのがすごく楽しかった。できることなら毎日一緒に遊びたいと思ったほどだった。  それはかなちゃんも一緒だったみたいで、わたしが「そろそろ帰らなきゃ」と言うと、半ベソをかきながら「みくちゃん、また明日も来てね。ずっと一緒にいてね。ずっとずっと遊ぼうね」と、抱きついてきた。  わたしは当然のように次の日もかなちゃんと遊ぶつもりでいたから「明日もまた来るから一緒に遊ぼうね、約束だよ」と、指切りをしたのだ。  でも、かなちゃんの家を出るとまた道に迷ってしまった。泣きながら歩くわたしを見とめた人が交番に連れて行ってくれて、わたしはお巡りさんに連れられて、やっとおばあちゃんちに帰れたのだ。  両親からは叱られ、おばあちゃんには泣かれてあの日は散々だった。  次の日は、心配しすぎた両親がわたしを外に遊びに行かせず、その次の日は雨で外に行けなくて、かなちゃんとの約束を果たせなかった。  そのうちおばあちゃんの家から都内の自分の家に戻る日になり、かなちゃんとの約束は忘れてしまった……今の、今まで。
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