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そういう理由だったのか、とようやく納得がいった。
奏さんが大嫌いだったあの頃、目が合いそうになると逸らすその仕草に、嫌われている、能力がないと思われている……と、勝手に落ち込んでいたことを思い出す。
「あの男と結婚すると言ったときも、最初は祝福するつもりだった。幼少時にたかが一日遊んでもらっただけの初恋を引きずってるような男に言い寄られるよりも、大切な人と幸せになって欲しいと思っていた……あの指輪を見るまでは」
思い出すと恥ずかしくて隠れたくなるようなわたしの黒歴史。偽物のダイヤの指輪を本物だと信じ込んで、奏さんに啖呵を切った。
「騙されても仕方がない。あれはかなり精緻にできていて、専門家でもすぐには看破できないほどだ。オレはたまたま従兄弟が数ヶ月前に同じようなものを掴まされかけたから、わかっただけだ」
「そうだったんですね」
「相手の男がただのお人好しの間抜けなら仕方がないが、もしもわかってて騙すようなことをしているのか、もしくは元々騙すつもりで、だったのか……調べねばならないと思って探偵を使った。勝手なことをして済まなかった」
「いいえ、奏さんが調べてくれなければ、彼が犯罪者だってわからなかったから……」
あのときはなんて失礼なことを、と怒ったけれども。余計なお世話だ、と突っぱねたけれども。
奏さんの行動が、すべてわたしを思ってのことだと知ると、さらに愛おしさが増した。
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