最終章 忘れていた約束

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「あの、付き合う上でわたし、いくつか聞きたいことがあって」 「なんだ」  聞いていいのか、重たいと思われないだろうか。そんな思いが躊躇いになる。でも聞かなければ、毎日不安を抱えながら過ごすことになってしまうし、奏さんは「なんでも言ってくれ」って前に言ってくれたんだから、言わずに我慢したり耐えるのは不実になるだろう。 「わたし、来月三十歳になるの。結婚を考えられない人とのお付き合いをするほど、心の余裕がなくて。だから、もしも奏さんがわたしとの結婚を1ミリも考えていないなら」 「考えていないわけがない」 「え?」  奏さんの横顔、すごく真剣だ……そのラインの美しさにも、うっとりと見惚れてしまう。 「正直オレは重い男だと思う。付き合う相手とは将来のことをきちんと考えたい。考えられない相手は好きになれないし付き合えなかった。だから美空とは、ちゃんと結婚を視野に入れて付き合いたい」 「本当に?」 「付き合うということは時間、感情、価値観や考え方、それに嗜好も分け合うことだ。先々に別れを考えるような出来事が起きたとしても、それを共に乗り越えたいと思える相手、踏ん張れる相手でなければ付き合う意味がない」 「奏さん……」 「遊びや寂しさから付き合う、という男もいるだろうがオレはそんなに器用なタイプじゃないからな」  嬉しかった。奏さんの恋愛に対する考え方、結婚に対する考え方。古い、と言われるかもしれないけれども、わたしには好ましい考え方だった。 「オレはあまり女性と付き合ったことがない。高校生のときに二人、大学のときに一人、社会人になって一人だ」 「充分だと思うけど」 「そうか? ユジュンなんか数え切れないぞ?」 「あの人は別です」  ユジュンさんの、良い意味の軽やかさ、親しみやすさを思い出す。彼が笑顔を向ければ、多くの女性が恋に落ちるだろう。 「もう一つ、いいですか」 「なんだ」  わたしは知らず深く息を吸った。次のことを聞くのも、かなり勇気がいるからだ。
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