最終章 忘れていた約束

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「わたしの家は、ごく普通の一般的な家庭だから、正直奏さんと付き合うことや結婚を前提にすることに、ご家族が反対するんじゃないかって不安に思ってる。ご両親は、わたしでは釣り合わないって思われないかしら」 「なんだ、そんなことか」  奏さんは大したことじゃない、とでも言いたげだった。 「わたしにとってはとても不安なことなの。好きで、付き合って、さらに気持ちが盛り上がって、もう奏さん以外考えられなくなったときに、ご両親から反対されたら……」 「それは大丈夫だから安心してくれ」  奏さんはウィンカーを出した。もう御殿場ICかと驚く。話しているとあっという間だ。 「オレの父は二瓶の婿養子で、母とは学生時代からの付き合いだ。多少は裕福な家の次男だったが、二瓶と釣り合う家かといったらそうではなかった。  祖父もそうだ。祖父は二瓶に出入りしていた庭師の一人だった」 「庭師?」 「ああ。病弱だった祖母のために、花をプレゼントしたり凝った植栽を作ったりしたらしい」  初めて聞く家族の事情に、驚くばかりだ。 「二瓶は血よりも商才や人柄を重んじている。親族一同、血に甘えることはないし相手にもそれは求めない。求めるのは性格、人柄、才能や努力、コミュニケーション力……なによりも、互いが愛し合って誠実でいられるかどうかだ」 「なんだか会社みたいね」 「会社もある意味家族のようなものだ。だからオレは、役職に踏ん反り返って甘えてるような奴は、左遷させるか降格させる」  そうだった、奏さんはそういう人だった。だから味方も多いけれども敵も多い、って……。でも、敵のほとんどは逆恨みに過ぎないのだろう。 「安心できたか?」 「うん、大丈夫。ちゃんと説明してくれてありがとう」 「他に不安なことはないか?」  しばし沈黙し、心に引っかかっていることはないかと探りを入れる。 「今のところ大丈夫。でも、もし何か出てきたらすぐに聞くから」 「そうしてくれ。オレはとにかく察するのは苦手なんだ。それで今までに付き合った女性からも振られてきた」 「奏さんが振られるなんて、嘘みたい」
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