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そんなわたしたちのボスは二瓶財閥の御曹司、二瓶奏。
わたしのニ歳下で二十七歳の彼は、高校卒業後にアメリカの大学で経済学と経営学を学び、卒業後はイギリスへ。日本に戻ってきてからは関連会社で研鑽し、二年前からこの会社……二瓶株式会社で社長を務めている。この二年の間に倒産間近の中小企業や町工場、それにアジアにマーケットを持つ複合企業まで、様々な会社を買収している。
まだ若いのに辣腕。仕事ができる。背が高い。顔が小さくて貴公子のような品格があり、女子社員から「王子」とか「プリンス」と呼ばれているほどだ。
きりりとした眉毛は太くも細くもなく、くっきりとした二重を彩るまつ毛は、瞬きすると風が起きるのでは、と思うほどに長くて密。浅黒く焼けた肌は趣味の週末クルージングで、との噂。程よく鍛えられていそうな体躯は、イタリアメイドのスーツも美しく着こなす。
そんなボスは仕事に厳しくて無駄が嫌い。穏やかな話し方からは、想像もできない決断力とリーダーシップ。それでいて、部下には気遣いがあるし、能力や才能の片鱗を見せる者は、学歴問わず登用する。その代わり、役職に甘えているような人材は、容赦なく左遷するから、味方も多いけど敵も多いという噂。
人望厚く、性別関係なく慕われているボス……なのにわたしは多分、嫌われている。いつも、目が合いそうになると、ふっとそらされる。態度が冷たくて、褒められたことがない。
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