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じっちゃんの部屋で、座り込んで考える。
「とは言え。どうしたもんやろな。じっちゃんは剣道以外のことはようわからんしな」
といって、じっちゃんが腕を組んで唸る。
「ジャンケンも勝負事やから、似たようなもんちゃうの」
わいは竹刀を振るような真似をした。
「うむ。ほなら、剣道でいう先の先。いや先々の先なら生かせるか」
「先生の先生?」
「ちゃうちゃう。先々の先や」
じっちゃんは、近くの紙とペンを取って「先々の先」と書く。
「先って漢字を、まだ夏生は習っとらんか」
「うん」
じっちゃんは立ち上がると、木刀を取り構えた。
「ええか、相手の起こり、心を読んで、直ちに打ち込んで機先を制する」
わいには、剣道着を着て、木刀を構えたじっちゃんが見えた。
対峙した相手と切先を交える。
相手が打ち込もうと、ピクッとした反応。
「面!」
じっちゃんが打ち込み、面が決まっている。
「そして残心」
とじっちゃんが、構え直す。
「まあ、簡単に言うと、相手が「打つぞ!」っていうのを感じて、相手より先に打つんや」
「ふーーん。でも、ジャンケンは先に出したら、読まれて負けんで」
「……そやな、そか」
じっちゃんは、唸って考えた。
「じゃ、後の先や」
じい、今度は紙に「後の先」と書く。
「相手の技を見切り、崩して打ち勝つ。夏生、なんか、ジャンケンで手出してみ」
わいが、パーを出すと、じっちゃんは、素早く手をかわし、チョキを出した。
「どや」
「…………後出しや」
「……そやな」
「反則や」
「そりゃいかん……」
じっちゃんは、深く唸ってから、
「うーん。ほな、無の心で行こう」
「む、むってなんや?まみむめものむ」
「無心と言ってな、心を空っぽにして、鏡のように沈めるんや。何事にも動揺したらあかん、そして、一つに固まることなく、流れるように動いて動かぬ心を持つんや」
わいは、じっちゃんが暗闇な中、複数の相手に竹刀で打ち込まれるが、スーと流れるように避けて面や小手を決めていくのを想像した。
「無心の境地、これが勝負の極意」
「むっちゃ強いんか?」
「ああ、いっちゃん強いんや」
「それや、それやるわ。ウシシ、ジャンケンで勝って勝って勝ちまくって……」
わいは、デザートやお菓子に囲まれている姿を妄想した。
ケーキやろ、ドーナツ、プリン、アイスクリーム、クッキー、まんじゅう、それから、わいの大好きなモロッコヨーグル……。よだれが垂れる。
じっちゃんが、額に手をやって痛い表情をする。
「こりゃ、無理やな」
「で、どないすんの?」
「そうやな、坐禅でもしてみるか」
「坐禅?」
「そや。こうやって座ってな、心を落ち着かせる。何も考えてはいかん。無になるんや」
「よっしゃ、やってみる」
わいは座って足を組んだ。
目をつぶる。
「無心やで」
「うん」
「心を静かに、無心になるんや。波ひとつないたたない湖のように。静かに、静かに」
「……」
「夏生。そうじゃ、頑張れー、頑張れー。心を鎮めろー」
「うるさいで、じっちゃん。ちょっと静かにしてや」
「……すまん」
わいは、目を瞑ると、暗闇に一人座っている自分をイメージした。
暗闇の中、ドーナツ、蜜柑のゼリー、ショートケーキ、などお菓子が色々現れるが必死にかき消して行く。
無心、無心、無心、無心。
そして、おもむろに、目をあけた。
「じっちゃん、ジャンケンや」
「最初はグー、ジャンケンポン」
わいはパー、じっちゃんはグーを出した。
「勝ったー」
「おおー」
「もう一回」
「最初はグー、ジャンケンポン」
わいはパー、じっちゃんはグーを出した。
「くーー、夏生は強い」
じっちゃんが、悔しがる。
「最初はグー、ジャンケンポン」
わいはパー、じっちゃんはグーを出した。
「夏生は強いのー」
わいは、自分の手「パー」を見つめた。
そして、また、おもむろに、
「最初はグー、ジャンケンポン」
わいはパー、じっちゃんはグーを出した。
「なんと、4連勝やないか」
「……じっちゃん、グーしか出してへん」
「……えっ」
「ジャンケンにならへん」
「それは……夏生がパーを出すから」
「……えっ?ええー?」
わいは、今までのジャンケンを思い出した。
給食の時、姉ちゃんとの時、パーを出していた、わい。
「夏生は、パーを出す時が多いからのう。特に、最初はたいがいパーや」
「な、なんやて!!! 最初はパー……ええーーーーーーーー……し、知らんかった」
ショック!
「……ハッ、もしや」
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