1年生1「夏生、じっちゃんとジャンケンの特訓をする」

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 わいはリビングに駆け込んだ。  遅れてじっちゃんも来る。 「お姉ちゃん、ちょっと、もう一回ジャンケンして」 「なに?」 「ええから、ほら、最初はグー、ジャンケンポン」  わいはグー、お姉ちゃんはチョキ。 「勝った」  わいは、自分の出したグーの手を眺めた。 「あら、グー出すなんてめずらしいやん」 「やっぱり、お姉ちゃん、俺がパーばっかり出してたの知ってたな」 「あ、気付いたか、チッ」 「ずるいわ、そんなん」 「ずるなんかしてないで、あんたが勝手にパーばっかり出してただけや」 「もう一回、勝負してくれ」 「えー」 「ドーナツ、残りの半分かけるから」 「もうええわ。今食べると晩ご飯食べられなくなるやん」 「ほなー」  わいは、何かないか周りを探す。    じっちゃんと目が合った。 「ほな、じっちゃんをかける」 「なぬ??」  じっちゃんが、変な声を出した。 「俺は、俺のじっちゃんをかけるよ」  わしは、じっちゃんの手を取った。 「もう、何言ってんの。おじいちゃんも、夏生のおじいちゃんでいいから。じゃ、私部屋に戻るからね」  姉ちゃんはそういうと立ち上がった。 「え、ちょっと待って、ジャンケンの特訓に付き合ってやー」 「おじいちゃんと、すればええやん」 「だって、じっちゃん弱いから」 「それはあんたが、パーばっかり出してたからやん」 「……あ、そっかー」  わいは、じっちゃんを見た。 「夏生」 「うん、じっちゃん。ジャンケンや」 「せいぜい、何出すか読まれない様に頑張りや」  と言って姉ちゃんは部屋を出て行った。 「大丈夫、無心になるから。ねえ、じっちゃん」 「そうやな。無心になれば、夏生は怖いものなしや」 「じゃあ、ジャンケンすんで」  わいは、座って坐禅を組んだ。 「おお、やるやないか夏生……まてよ……夏生は、いままでパーを出して来たから、グーを出せば負けてやる事が出来たが、今度は何を出せばいいんや。パーは出さない、という事は、グーかチョキ、その手に負けてやるには、えーと…………」 「じっちゃん、やんで」  わいは、おもむろに目を開けて身構えた。 「ま、まて、ちょっとまて」 「グーに負けるのが、チョキでチョキにに負けるのがグー、いやパーでつまり」  じっちゃんが独り言を呟いている。 「じっちゃん、ええからやんで。最初はグー、ジャンケンポン」  わいはチョキ。じっちゃっんはグー。  ガーーーーン。 「ま、負けた」  わいはショックを受けた。  じっちゃんもショックを受けている。 「か、勝ってしまった。す、すまん。夏生。一生の不覚」    じっちゃんと目があった。 「ええねん。ありがとう、じっちゃん。わい、次頑張る」 「おおおおお、そうや。そうやぞ夏生。残心や、崩さない心が大事じゃ。油断せず次につなげるんじゃ。そして、それは相手を尊重する礼儀でもある。えらいぞ、夏生。本当にえらい」 「よし、じゃ、もうひと勝負。最初はグー、ジャンケンポン」
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