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次の日の給食時間。
「それで、ジャンケン強くなったん?」
ゆたやんがその日の目玉、きな粉パンを頬張って聞いてきた。
「その後は、じっちゃんに勝ったり負けたり。じっちゃんにいつも勝ってたわいとしては、弱くなった気分や」
「でも、パーを出して負ける事は無くなったんやろ」
「そうやで。それに無心でジャンケンに挑めるようにもなったしな」
ミカンが「ねえー。今日はきな粉パンが残ってるよ。おかわりするひと、前まで来てやー」と声をかけ、何人かが前に集まる。
「待ってくれー」
とわいも、残りを口に詰め込んで、走っていく。
「よしやるよ」
今日も、ミカンが仕切ってジャンケンが始まろうとする。
「あ、待って」
わいは急いで足を組んで座ると目をつぶる。
そして、暗闇の中、一人坐禅を組んでいる自分をイメージした。
無心、無心、無心、無心。
「何やってんの。ほら、夏君ジャンケンすんで」
「最初はグー、ジャンケンポン」
わいはグーを出した。
ミカンもグー。
他の人はチョキ。
「勝ったーー。やったで、じっちゃん」
「よし!!」
とミカンの声も聞こえる。
「チェッ、またこの二人かよ」
と、他のみんなはゾロゾロと帰って行く。
「よし、無心や、無心」
わいは、座って目をつぶり、
一人坐禅を組んで悟りを開いた。
パッと目を見開く。
「行ける!!」
ミカンを見ると、炎をメラメラと燃やし激しく燃えているオーラが見える。そのオーラが四方八方に飛び散って破裂する。
「ヒィーーー」
更に、ミカンが迫ってくる。わいは、一歩下がって腰が砕けた。そしてオーラに飲み込まれた。
「最初はグー。ジャンケンポン」
わいはパー。ミカンはチョキ。
「よーーーし!」
と、ミカンが雄叫びをあげる。
強えーーーー!
「ハハ、ハハハハハ」
ごめん。じっちゃん。負けた。
でも、残心やな。
心を乱さず、相手を尊重する。
ありがとう、じっちゃん。
わい、強くなれた気がする。
きな粉パンを皿に乗せた、ミカンが前を通り過ぎる。その迫力に、わいは2、3歩後ろによろめいた。やっぱり、ミカンにはオーラが見える。その、後ろ姿をみながら、わいは唾を飲み込んだ。
いろいろありがとう、じっちゃん。
でも、やっぱり、ミカンには食べ物の勝負では勝てへんわ。
わいは悟った。
Fin
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