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「本当空気読めないよね」
デスクのキーボードに置かれた指先が跳ねるように震えた。顔を上げると同僚の女と目が合った。しかし彼女は私の様子など気にもせず口を動かしている。
「藤間さんだよ。今日の飲み会も来ないって。っていうか一回も来た事ないよね。いくら仕事が出来てもあれじゃあねぇ」
私はちらりと奥のデスクに座る藤間さんの姿を盗み見た。黙々と仕事をこなし、進行にトラブルが起きたりしない限り定時で席から姿を消す。彼女の言うように、業務に関わる会話以外で誰かと話しているのを見た事はない。
でもその姿は疎ましいものなんかではなく、寧ろ美しく、ひどく羨ましいものとして私の両の目に映った。
「本条さんは勿論来るよね?19時からいつもの居酒屋だからちゃんと仕事終わらせてよねっ」
いえ、行きたくないから行かないです。
あなたがいつもみたいに終わらなかった仕事を押し付けない限り私は定時で帰れますし。
そう言葉に出来たらここから一センチくらいは藤間さんに近付けるだろうか。
「勿論!頑張って終わらせます!」
大嫌い。こんな自分。
私はまた不恰好な笑みを浮かべて青白い画面に視線を戻した。
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