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「っあははははは!!!!!!」
青ざめる私も、怒りに顔を赤くする課長もその笑い声に目を見開いた。
藤間さんがお腹を抱えて笑い声を上げている。
「はぁ、おっかしい。あ…課長、私の笑った顔が見られて良かったですね」
茹で蛸のような課長が口を開く前に藤間さんは鞄から財布を取り出し何枚かのお札をテーブルに置いた。立ち上がった彼女の手は私に向かって伸ばされている。
その掌にほとんど無意識に指先を乗せると、ぐいと体を引かれた。
「あ、因みに先程の発言は完全にセクハラですので人事に報告させて頂きますね。こんなにお酒がまずい席は初めてでしたけれど、皆さんはどうぞこの後も楽しんで下さいね」
※※
「と、藤間さん!」
コートを脇に挟んだまま、声を上げる。
「あ、ごめんなさい。一緒に連れてきちゃったけど、戻りたかったですか?」
私は必死に首を振る。そんな訳ない。あんな場所、二度と行きたくない。
「絶対ないです!良ければ私と一緒に飲み直しませんか!」
ボリューム調整の出来ていない声が、冬の空にくっきり響く。
「…本条さんって面白い人だったんですね。さっきはああ言ったけど、やっぱり今日来て良かったです」
藤間さんは私を見て笑う。
正面からきちんと姿を捉えるのは、きっとこれが初めてだ。
笑うのが苦手、なんてきっと嘘だろう。
それはこちらも釣られてしまうくらいに、柔らかで可愛らしい笑みだった。
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