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「ありがとうございました!」
「っした!」
部長の掛け声に、汗だくで肩を上下させている部員たちも揃って頭を下げた。大会間近の練習はいつも以上に気合が入る。髪の先から滴った汗のしずくが照明に照らされる。
「よし、1年窓閉め、2年はボールと備品しまえ。もたもたすんなよ、もうすぐ施錠時間だからな」
副部長が急かすように手を叩く。今日は体育館を2分割しての練習だったが、隣で練習していたバレー部はすでに撤収している。
すっかり日が落ち、校舎にはもう人影まばらだ。部長の高野は体育館の一角で、黙々と用具の片付けをしている。そこへ1年生数人が駆け寄ってきた。怪訝な顔をする高野に、口火を切ったのは浅野だった。
「部長、どうしてだめなんですか? もっと練習したいです」
1年で唯一レギュラーに選ばれ、誰よりもやる気に満ちていた。まだまだやれます、と顔に書いてある。
高野はこれみよがしにため息をついた。1年の集団を迂回し、バスケットボールの入ったキャスターをゴロゴロと押して、用具入れに運ぶ。
「もっと体育館使わせてくださいよ。最終までまだ時間あるじゃないですか」
「ちゃんと片付けするんで、俺たちだけでも残らせてください!」
「お願いします!」
何度も言い募るが、高野は無視して後片付けをすすめる。備品庫のドアを閉めようとするのを阻止されて、仕方なく後輩に向き直った。
「早く片付けろよ」
「大会は来週なんですけど」
「だから何?」
「もっと練習したいんですよ、俺たち」
「さっさと帰って寝ろ」
にべもない高野の言葉に、ぎり、と歯ぎしりした浅野が、言うまいと思っていた言葉を絞り出す。
「先輩は、勝ちたくないんですか?」
「練習したら勝てる保証でもあんの」
「それは……でも」
「ほら、早く帰れよ。鍵閉めれないだろ」
苛立たしさを含んだ声に、後輩たちはそれ以上言葉を続けることができなくなった。
「はいおつかれ」
ピシャン、と備品庫のドアがしまった。
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