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片付けを終えるやいなや、半ば追い出されるようにして体育館をあとにした部員たちだったが、田口と小野寺は自転車通学なのでさっさと帰ってしまった。残る徒歩通学組の溝口と駅まで歩く。テールライトの赤い光が、未だ怒りの冷めやらない浅野の横顔を照らす。
「なんであんなに冷めてるんだろうな。先輩、最後の大会だろ? 全然分かんねえ」
溝口は苦笑しながら、
「ホントだよねえ」
「なんでやる気ないやつが部長なんだよ」
「たしかにねー」
「普通、大会前なら練習に熱が入るもんだろ? 俺たち間違ってないよな?」
「だよなー」
「何、勝ちたくないの? 相手に弱みでも握られてんの? 定時退社がモットーなの?」
「内申書に書きたいんじゃない?『高校ではバスケを頑張りました』とか」
「やっぱり帰宅部だと印象悪いんかな?」
「推薦がもらいにくいって聞いたことある。よっぽど成績良くないと、推薦理由がないじゃん」
「あ、高野先輩って推薦狙いなのかな」
「かもねー」
溝口ののんびりした相槌を聞いているうちに、怒りが少しずつ落ち着いてきた。
「もっと練習したいんだけどな」
ポツリと漏れた独り言は、間違いなく本心から出た言葉だった。
「やる気に満ち溢れてるよねえ、浅野は」
「だってさあ、うまくなりたいじゃん。勝ちたいじゃん」
コンビニの前を通り過ぎる。焼きもろこしアイス餅ののぼりが視界に入り、一瞬足を止めそうになった。部活後の空腹具合でのこういう広告は目に毒だ。他にも色とりどりののぼりが並んでいる。マスクメロンジュース、豆乳ラテアイス、朝限定フルーツトッピングスムージー、再びアイス餅。
「朝……そうだ、朝だよ。30分とか1時間くらい早く来て練習しない? 走り込みとかさ。ボール使わないやつならできると思わん?」
「いいね、それ」
溝口もうなずく。浅野はすぐにスマホを取り出した。
「田口たちにも連絡しとくわ。クッソ上手くなって先輩たちを見返してやろうぜ。何ならスタメンも奪うから」
「あはは」
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